スクウェア・エニックスは、シリーズ誕生25周年を記念して開催される「FINAL FANTASY展」会場内ステージにて「ファイナルファンタジーXIV:新生エオルゼア スペシャルトークショー」を実施した。ここでは、吉田直樹氏をはじめ、本作の開発に関わるコアメンバーによるステージの模様をお届けしていこう。
トークショーはまず、先日公開された実機トレーラー「リミットブレイク」の上映からスタートし、映像が終わると司会進行を担当するスクウェア・エニックスの望月一善氏が登壇した。この後プロデューサーの吉田直樹氏を呼び込むため、望月氏が「皆さんで“吉P”と言ってください」と言うと、それに応えた来場者からは盛大な「吉P!」の掛け声が上がり、開始から異様な盛り上がりを見せていた。
その声を受けて姿を見せた吉田氏は、「Japan Expoやgamescomでは新規のお客様向けに基礎の基礎からプロモーションしてきましたが、まもなく『ファイナルファンタジーXIV:新生エオルゼア(以下、FFXIV)』が2周年ということもあるので、現行との違いを織り交ぜつつ新情報を紹介していきたいと思います」とコメント。また、これまでは吉田氏が表に立ってプロモーションを行ってきていたが、この日は本作の開発に携わるコアメンバーも訪れており、アシスタントディレクターの新納一哉氏、テクニカルディレクターの橋本善久氏、リードバトルプランナーの松井聡彦氏、サウンドディレクターの祖堅正慶氏が続けて登壇し、挨拶を行った。
「FFXIV」ではイベントやクエストなど、ストーリーの統括をしているという新納氏は「『FFXIV』が大好きだったので昨年の年末ごろに合流しました。新参者ですがよろしくお願いします」と述べた。新納氏がスクウェア・エニックスに入社したのは、もともとかなりの「ファイナルファンタジーXI(以下、FFXI)」プレイヤーであり、「FFXIV」も一週間早くプレイできる限定パックを購入して遊ぶほど本作が好きなのが理由だという。吉田氏からは「お会いしたことがなかったんですけど、『スクエニ…というよりFFXIVに入りたいんだけどどうしたらいい?』という連絡を急にもらいました」という驚きのエピソードも明かされた。
続いて、技術面やプロジェクトのマネジメント支援などを担当している橋本氏は「『FFXIV』はすごく思い入れのあるプロジェクトなので、皆さんも今後を楽しみにしてほしいなと思っています」と挨拶。橋本氏は「Luminous Studio(ルミナス スタジオ)」というゲームエンジンの開発にも関わっており、「FFXIV」と兼任しているという。
次いで「FFXI」のプロデューサーでもある松井氏は「最近、根を詰めて新生版の通しプレイをする機会がありましたが、だいぶ変わっています。今日はその辺りを皆さんにお伝えできたと思っています」とコメント。このとき、望月氏から「『FFXI』と『FFXIV』のプロデューサーが揃いましたね」との声が上がると、吉田氏も松井氏も「いずれ何か企画したいですね」と、2作品のコラボレーションに期待が持てそうな様子を見せていた。
そしてニーソが大好きだと宣言しながら登場した祖堅氏は、「サウンドディレクターが何やってるかイマイチ分からないと思いますが、サウンドの雑用ですね」とおどけて挨拶し、会場の笑いを誘っていた。この後は、コアメンバーの4人が担当する分野の情報を説明しつつ、吉田氏が実機で実演するという形でステージが進行していった。
現行よりも軽く、高品質を目指して作られた「グラフィック」
グラフィックについての話題では、新生版「FFXIV」ではグラフィックエンジンが変わっていることもあり、技術を担当している橋本氏を中心にトークが展開。橋本氏は新生版を作るにあたって「まず絵を綺麗にしないといけない」と考えたようで、レンダリングシステムをすべて見直していると話す。コードもいちから組まれており、その中でも特徴的なのがディハードレンダリングとなっている。これにより、ライト(光源)をたくさん置けるようになったり複雑なライティングも可能となり、映像表現が豊かになったとのこと。昼はもちろん、夕方や夜、ダンジョン内も綺麗に表現できているという。
また、フィールドなどの広大な場所では、画面の奥まで綺麗に表示するためのLOD(Level of Detail)という工夫もしており、切り替わりが分かりづらいよう配慮されているのもポイント。そのほか、戦闘時のエフェクトはツールもシステムもすべてゼロから構築し直すなど、“メモリサイズを小さくして品質は上げる”という要件を満たすため、あらゆる箇所に工夫が施されている。
望月氏から「これだけ綺麗になるとPS3版は大丈夫ですか?」という疑問が出ると、「実は僕も心配だったんです」と、開発の苦労点についても触れた。キャラクターメイクや衣装替えといったバリエーションの多さ、プレイヤーキャラクターとモンスターだけでも数十体を同時に描画しなくてはいけないこと、種族別に用意するアニメーションパターン、複雑なUI、広大な地形、変化する天気と時間など、PS3で実現するには相当に大変な条件があることを説明。さらに開発中にも吉田氏の要望も増えるらしく「MMORPGを作るのはすごく大変なんですが、ほかのPS3のゲームと比べても素晴らしいものにするためスタッフが日夜頑張っています」と語った。
なお、橋本氏が開発中の「ルミナススタジオ」だが、このゲームエンジンを作っているスタッフも「FFXIV」の技術面に関わっているという。会場でその「ルミナススタジオ」を使ったリアルタイムデモ映像が上映されると、望月氏から「これで『FFXIV』作らないですか?」とぶっちゃけた質問が飛び出したが、現在は汎用型に向けてじっくり作っている最中でタイミングが合わないのと、「FFXIV」では専用のエンジンをゼロから作り直しているため、これはこれでかなり“リッチ”な仕様になっているとのこと。
ここからの話題はサーバーやクライアントに移っていき、地味なところではあるが起動時間やロード時間の短縮により、少しでも快適に遊べるよう工夫されていることなどが説明された。また、パスファインディングシステムという、モンスターがどこを歩くかという計算もサーバーサイドで行われており、これにはAIについて日本で一番権威ある人が関わっているようだ。その技術は世界的に有名なAIの冊子でも発表される予定となっていることから、見えないところでレベルの高い技術が使われていることが伺える。
サーバーサイドではほかにも、ボタンを押したらすぐに反応が返ってくるレスポンスの問題や、遠隔地でプレイしていると発生してしまうタイムラグについても可能な限り対策しているという。さらに新生版で実装予定のPvP(対人戦)に耐えられるよう通信設計も見直され、サーバーで同時に扱えるキャラクターが数が400~500だったものが1000に、モンスターは約600だったものが2000まで増え、ゲームプレイによる“冒険感”の強化も行われている。
また、スライドにもあるマルチデータセンターについては、吉田氏から説明が行われた。これまで日本にゲームサーバーを置き、海外プレイヤーも日本に繋ぐ形となっていたため、タイムラグが発生して海外プレイヤーから「イフリートのエラプションが避けられない。俺の画面では避けている」といった意見が寄せられていたため、新生版ローンチのタイミングで海外ユーザーは現地のデータセンターに繋ぐ形にしたという。ちなみに、日本ユーザーが海外のデータセンターに繋ぎ、海外ユーザーと一緒にプレイすることは可能とのこと。
技術面に関する総括として、橋本氏は「『FFXIV』はほとんどの部分を作り直すという覚悟のいるプロジェクトでしたが、スタッフたちも前向きに取り組んでくれて、一年と数カ月という短い期間で制作してきました。この実機も本当はまだ見せたくない途中のバージョンですが、もっとよくなる部分があると思うので、今後を含めて期待していただければと思います」と語った。
快適さと分かりやすさを追求した「クエスト」
続いては新納氏を中心に、クエストや新コンテンツに関するトークが展開。新納氏はまず、吉田氏から「快適さと、あとは数だろう」という話をされ、その2つの要素を達成するためにシステムそのものを作り直したと話す。また、ゲームプレイの導線についても「一般的なMMOって、クエストをやっているうちに世界を旅していって、レベルが上がり、お話も進んでいくのが普通かなと思っているんです」と述べ、まずはそのラインを目指すことにしたという。
クエストを作るにあたっては、橋本氏をはじめとするプログラマーたちにツールを作ってもらったことで、クエストを一個作る時間をかなり短縮できたようで「とにかく数を頑張ろう」と制作しているようだ。
一方、望月氏からは2つ目以降のジョブやクラスを育てるときにクエストが尽きてしまったらどうすればいいのか、といった疑問の声が上がった。これに対しては吉田氏が「クエストはかなりの数があるのでやり尽くさなくてもレベル50になることもあると思いますし、リーヴも新しく入れています」と解答。さらに、まだ発表していないパブリックで楽しめるコンテンツや、新しいシステムで統括したNM(ノートリアルモンスター)もいるようで、これらの要素を含め、毎日いろんなコンテンツを少しずつプレイしているとレベルが上がっていくゲームデザインになっているという。
すでにレベルが上がっているであろう現行プレイヤーについては、新規にクリスタルタワーやレイドダンジョンなどが追加されるほか、チョコボの育成といったコンテンツも用意しているとのこと。そのほか、「FFXI」でお馴染みのレベルシンクシステムも搭載されることが明かされた。
このレベルシンクは、本作では各インスタンスダンジョンにレベル制限が設けられるが、仮にレベル35までのダンジョンにレベル50の人が挑もうとすると、装備を変えなくても自動的にレベルを35まで下げてくれるというもの。このシステムにより、新生版から始めたプレイヤーと一緒に遊んだり、新ダンジョンでアイテムを集めることも可能となるので、現行プレイヤーでも新しく追加されたコンテンツは一通り遊べるようになっている。
この後は、メインクエストの話題に。新生版では、新しい時代になることとゲームシステムの刷新に合わせて「今回の話はこうあるべきだったよね」というところを詰めて制作されており、その結果、現行とは全然違うものになっているとのこと。
細かいところでも、メインクエストでは交渉がなくなっているという。吉田氏は、交渉をなくした理由について「交渉して物語を進めるエピソードがあってもいいと思いますが、システムでやる分にはちょっと無理があります」とコメント。例えば、将軍に毒団子を交渉で食べさせて先に進むのではなく、ボスとはちゃんと戦えることを重要視していきたいと考えているようだ。
新納氏も「クエストの基本的な進み方は、強いボスを倒して次のお話に…というRPGらしい進め方にしようと思っています」と述べた。実際の体験として、イフリートを倒しに行こうとしたらレベル50の仲間が助けに来てくれて、カットシーンを見ただけで終わったというショックな出来事があったらしく、「レベルシンクも含めて、ちゃんとボスを倒して達成感を持って次に進むような感じになればいいなと思っています」とした。
BGMで新たな試みも行われた「サウンド」
クエストの話に関連して、カットシーンの日本語対応が行われていることも明かされた。これについて祖堅氏は「もしかしたらユーザーさんのイメージと合わないかもしれませんが、すごくいい収録ができたので、楽しみにしていただければと思います」と述べた。
会場からは日本語ボイスの声を担当した声優は誰なのか疑問の声が上がり、「ひとつだけ!」という声に応えてガイウスを大塚明夫さんが担当することが明かされた。また、収録時のエピソードとして、大塚さんが演じるキャラクターをスタジオに映し出していたら、それを見た大塚さんが「おっ、俺またジャッジやるの?」と、以前に演じたキャラクターと似ているがゆえの感想があったという裏話も語られた。
ボイスだけでなく、BGMについての話題も展開。これまでBGMはフィールドに出たら流れっぱなしになっていたが、今回は例えばグリダニアであればグリダニア近辺のフィールド曲を5分~7分程度の長さで作り、それを“イイ感じ”にセパレート(別々に)して集落に配置するといった仕組みが取り入れられている。これにより、街を出てから目的地まであまり寄り道せずに進むと、なんとなく繋がって一曲に聞こえるようになっているのだ。
また、BGMの後ろで流れる環境音にも非常にこだわっているという。リアルな画面に対してリアルな環境音を付け、喜怒哀楽を表現するところには曲を配置するなど、サウンドデザイナーのこだわりが随所に感じられそうだ。
こうした真面目な話が続いていたのだが、祖堅氏がかつてブログで「Facebookの“いいね!”が800を超えたら俺がメテオを止める」と書いていた件を望月氏が引っ張りだしてきた。すると当の祖堅氏は「今日は禊を落とすためにやってきました。こちらをどうぞ」といって、お手製のコラージュ画像を披露。シュールな画像に場の空気は一転、来場者からは笑い声が上がり、話を振った望月氏からも「やりすぎです(笑)」とツッコミを入れられていた。
「バトル」はテンポの違いがすぐに感じられるシステムに
この後はバトルについての話題が展開。ほかのシステム同様、バトルもプログラムから何まで作り直したようで、プレイしてみるとテンポの違いがすぐに感じられるものになっているという。大きなところでは、現行版では敵に攻撃をヒットさせてTPを溜めてからウェポンスキル(WS)を使う仕組みになっていたが、新生版ではTPが初めから蓄積された状態でバトルが始まり、MPと同じように時間で回復していく形式になっているのだ。
これにはバトルのテンポアップの目的だけでなく「新生で実装予定のPvPを考えると、敵と対峙してすぐにWSを使えないとお話にならない」という理由があったとのこと。なお、こうしたシステム部分のほか、バトルのモーションに関しても更なるスピードアップが行われているという。
TPのシステムが変わったことにより、コンボの見直しも行われている。“WSを繋げてコンボ”という基本線はそのままに、PvPのような相手が頻繁に動き回る戦いだとコンボの発動条件に“方向”を入れるのが難しいため、方向が発動条件になったものは数を絞るか、あるいは初段だけにしているという。また、TPが最初から溜まっており、2段目以降もTPが必要となるので、松井氏は「それも含めてTPを管理するバトルに変わっています」とした。
Q&Aコーナーと新クラス・新ジョブの発表情報
テーマごとのトークが終わるとQ&Aコーナーへと移り、吉田氏に気になる質問が投げかけられた。…のだが、時間が押していたこともあり、用意されていた質問から抜粋して場が進められたので、そのダイジェストをお送りする。
Q:どうしたらチョコボと一緒に戦えるようになりますか?
吉田氏:(チョコボを)呼びます。メニューが出ます。一緒に戦うを選びます。以上です。
Q:ジャンプが実装されます。次は飛びますか?それとも泳ぎますか?
吉田氏:これまでは五分五分とお伝えしていましたけど、ドイツでお肉を食べている間に飛ぶ方に傾いています。やっぱり「ファイナルファンタジー」では飛空艇で大空を飛ぶのがいいなと僕自身も思ってますので。ただ、「拡張パックの話だよね?」と橋本に睨まれていますが(笑)。
Q:リミットブレイクではメテオ以外に何を発動できるのでしょうか?
吉田氏:ティファのファイナルヘブンが予定されています。
Q:ワールド名で登場しているエクスカリバーや正宗が武器として実装される予定は?
吉田氏:エクスカリバーはちょっと変わった仕様を入れようかなと考えています。正宗はサムライや忍者といったジョブが入ってきたときこそ真価を発揮すると思うので、そこでいきたいと思っています。鞘が付くかどうかは、恐らくプログラマーとアニメーターとキャラモデラーが頑張ると思います(笑)。
Q:バスターソードにマテリアをくっつけたいです。
吉田氏:もろに「ファイナルファンタジーVII」ですね。いくら僕が「VII」好きとはいえ、そのままはちょっと…ですけど、シリーズの武器はみなさんそれぞれ思い入れがあると思うので、いずれ順々に何か考えていきたいです。
Q&Aは以上となり、最後に吉田氏と松井氏から新クラス「巴術士」と、新ジョブ「召喚士」の紹介が行われた。巴術士は本を武器に、ペットを使役して戦うクラスとなっている。得意な魔法は敵のHPを削るDot(ドット)系と、敵を弱体化させるDebuff(デバフ)系だ。ペットはキャラクターアートにも描かれているカーバンクルを使役することができ、Tank(タンク)系とCaster(キャスター)系の2種類から選択できる。
巴術士は武器が本となっているので、過去の「FF」シリーズでもあったようにオートアタックなどでは本で敵を殴るのだが、開発時に吉田氏は「『FFXIV』はキャラの頭身が高いから無茶だし、諦めたら?」と話したことがあるという。しかしバトルチームもアニメチームも「絶対やる」と意気込んでおり、モーションアクターの人も相当乗り気だったという。
それを受けて松井氏は、「巴術士は武器で攻撃することがメインなクラスではありませんが、オートアタックのモーションを痛くしてねとお願いしたので、面白いものが仕上がってくると思います」と話していた。なお、武器となる本はクラフトで制作することは可能だが、どのスキルのレシピになるかはまだ調整中とのこと。
続いては召喚士について。召喚士はカーバンクルではなく、蛮神の力を宿したペットを召喚して戦える新ジョブ。召喚獣そのものを呼び出すものは「大召喚」という別のシステムが用意されているので、召喚士が呼ぶのはあくまで蛮神の力を宿したペットとなっているが、戦闘では派手に戦えるようになっているという。
召喚士実装のタイミングでペットは4種類いるようで、キャラクターアートに描かれたイフリートの力を宿したペットのほか、ガルーダの力を宿したペットも登場するようだ。松井氏はそのほかの二体については「ネタバレになってしまうので、リローンチを楽しみにしていただければと思います」と話すにとどめていた。
続けて松井氏は、肝心の実装時期について「巴術士は新生版サービスインに間に合わせるように、召喚士はその次のパッチぐらいかな…」とコメント。すると吉田氏から「あれ、(召喚士も)間に合いますよね?間に合いますよね?」とプレッシャーをかけられ、最後には「頑張ります」と根負けし、来場者から惜しみない拍手が送られた。
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