ベクターが2012年12月より正式サービスを開始したブラウザ型のオンラインRPG「ソラノヴァ」。本作の開発を手がけるFunCity社の陳偉星氏と陳蕾氏にお話を聞くことができたので、その内容を紹介しよう。
「ソラノヴァ」はファンタジー世界を舞台にしたブラウザRPGだ。最大の見どころはハイクオリティのグラフィックで、クライアント型に劣らぬ美しい映像を楽しめる。もちろん、ほかのプレイヤーとパーティーを組んでのダンジョン攻略や強力なボスとのバトル、ギルドの結成といったオンラインRPGならではの要素も盛りだくさんで、お手軽かつやり応えたっぷりの作品になっている。
今回はそんな本作を開発したFunCityのCEO・陳偉星(Andy Chan)氏とディレクターの陳蕾(Claire Chen)氏のおふたりにインタビュー。「ソラノヴァ」についてはもちろん、ゲーム制作の哲学や中国市場の傾向、中国から見た日本市場といったさまざまなお話を聞かせてもらった。
ユーザーに楽しんでもらうことを第一に考える
――まず、FunCity社について紹介してもらえますか?
陳偉星氏:設立は2006年の8月です。大学生のときに仲間たちと会社を作ろうということになったんですが、ちょうどそのころにFlashが流行っていたんですね。これを使って何か面白いことができないかと考えてゲームを作ろうということになりました。
現在、会社には300人くらいの人員がいて開発関連には200人以上が従事しています。運営中と開発中のタイトルは5つで、もちろん新たなタイトルを開発する予定もあります。
――開発中のタイトルは、やはりブラウザゲームになるのでしょうか?
陳偉星氏:そうですね。ただ、今後はスマートフォン向けの移植や新規開発なども考えています。
――ゲームを開発する上で特に気をつけていることは何でしょう?
陳偉星氏:どうやったらユーザーにもっと楽しんでもらえるかをメインに考えています。私はもともと建築関係の勉強をしていて、建築もそうですが、ゲームもひとつの芸術として認識してもらいたいと思っています。
ですから、私たちはゲームを作るときには、あまりコストのことは考えずに自分たちが納得いくまで作り続けます。技術者たちにも単にソースを書いて終わりということではなく、自分の作ったものが本当にユーザーに受け入れられているか、ひとりひとりに考えてもらっています。私は非常に宮崎駿さんが好きなんですが、これは宮崎さんがアニメを作る心得について語った本に書かれていたことなんですよ。
――宮崎駿さんも含めて、日本で会ってみたい人というのはいますか?
陳偉星氏:「スラムダンク」の作者の井上雄彦さんには、ぜひお会いしてアドバイスをもらいたいですね。それと、宮崎駿さんの作品の楽曲を担当している久石譲さん。宮崎さんもそうですが、これらの人も中国で非常に人気なので、いろいろ交流して学ぶことができたらと思っています。
中国と日本のユーザーの傾向と違い
――今の中国のゲーム市場の傾向を教えてもらえますか?
陳偉星氏:今現在、中国の市場はとても大きなものになっていて、数百もの開発会社が参入している状況です。ただ、ユーザーのゲームの質に対する要求がどんどん高くなっているので、質の悪い開発会社は今後淘汰されていくと考えています。あと2、3年もすれば、開発会社は大きな力のある数十社くらいに再編されるのではないでしょうか。
――やはりオンラインゲームが主流なんですか?
陳偉星氏:今はクラサバ(クライアント型)のオンラインゲームが主流ですが、こちらはほぼ成長が止まっている状態です。ウェブゲーム(ブラウザ型)のほうはまだ成長し続けているので、あと2年くらいでウェブゲームがクラサバを越えるんじゃないかと考えています。
――中国と日本のゲームユーザーの一番の違いは何でしょう?
陳偉星氏:ゲームに対する忠誠度ですね。中国のユーザーはすぐにやめてしまって、ほかのゲームで遊ぶようになるんですが、日本のユーザーは愛着がすごくて、本当に好きになったら本当に長いこと遊んでくれます。ここが一番の違いですね。それから、日本のユーザーさんはマナーがとてもよくて、開発者が何を楽しませようとしているか理解した上で楽しんでくれます。中国のユーザーはマナーが悪いというか、自分が有利になるならルールを平気で無視しますから、そこもけっこう違いますね。
先ほども言ったように自分たちはゲームをひとつの芸術品と考えていますので、何のためにこのゲームを作ったのか、この部分をどうしてこう作ったのか理解してほしいと考えています。その意味で日本のユーザーさんの楽しみ方はうれしいですね。
――逆に日本のユーザーはお行儀が良すぎなどと思うことはありませんか?
陳偉星氏:そんなことはないですよ。開発会社からすると、日本のようなユーザーさんのほうがありがたいです。たとえば何かのイベントを実施したとき、私たちは参加したユーザーさんすべてに楽しんでほしい。一部のユーザーによってバランスを崩されて、ほかの人に不快感を発生させることは望んでいませんし、それは最悪なことです。当然、開発会社としてはユーザーのマナーに期待するだけではなくて、ゲーム内のバランスの作り方などを考えていかなければならないとも考えていますが。
――それでは日本市場の一番難しい部分は何だとお考えですか?
陳偉星氏:グラフィックですね。日本のゲームのグラフィックはすごく質が高くて、世界的にも有名ですし。できるだけそこに近づけたいと思っていますが、やはり難しいですね。ですから、日本のグラフィックの開発者とぜひ交流してみたいですし、自分たちが今後開発するゲームに参加してもらいたいという気持ちもあります。
――ちなみに、日本のゲームで特に好きな作品、影響を受けた作品は何でしょう?
陳偉星氏:ちょっと古いかもしれないですけど、「スーパーマリオ」とか「ファイナルファンタジー」とか、小さいころに遊んだゲームがすごく印象に残っています。「ファイナルファンタジー」のCGは特に感心しましたね。
――ブラウザゲームも年々リッチな映像になっていますが、今後もっとも進化していくのはグラフィックの部分とお考えですか?
陳偉星氏:そうですね。
――前作の「まじかるブラゲ学院」を日本で展開するにあたって特に意識したこと、気をつけたことは何ですか?
陳偉星氏:一番気になったのはベクターさんからの提案ですね。これはすごく尊重しています。「ソラノヴァ」でもベクターさんにテストをしてもらって、いろいろな要望や提案をしてもらっています。
――特にどのような提案がありましたか?
陳偉星氏:具体的な内容についてはここでは申し上げられないのですが、一番は画像などの著作権ですね。もちろん故意に似せているわけではないんですが、なかなか全部チェックしきれないんですよ。「ソラノヴァ」でも既存のものとかぶるようなものがないか、非常に厳しいチェックが入っています。
それと色の調整ですね。中国では鮮やかな赤色が人気なんですが、それは日本の人から見ると「ちょっと」となるようで、もっと柔らかい色にしてくれと言われることが多いです。
――意外な嗜好の違いですね。ところで、オンラインRPG以外のジャンルを開発しようというお考えはありますか?
陳偉星氏:上海の支社ではトレーディングカードゲームなども考えています。また、以前に三国志風のシミュレーション(「Last Conquer~三国争覇~」)を日本でも出したことがありますが、このタイプはそれ以降本格的には作っていないですね。
徹底した見直しがなされた「ソラノヴァ」
――「ソラノヴァ」についてですが、開発期間はどれくらいかかったのでしょうか?
陳偉星氏:トータルの開発期間は2年を越えましたね。最初のバージョンをテストしたところ、いろいろな問題が発生したんですよ。技術問題だけでなく、ゲームのバランスや画像も自分たちが納得できないものでしたので、グラフィック、システムエンジン、ゲームの内容などをトータルで見て、自分たちが本当に納得し、運営しても大丈夫となるまで1年以上かけて改善しました。
ゲームの完成後のテストで見つかった問題を改善するのには、かなりの時間とコストがかかりますが、さきほども言ったとおり、私たちは全然気にしてはいません。本当に自分たちがいい作品だと思えるまで改善を繰り返します。これは今後も変わることはありません。
――作品の出来にとことんこだわったというわけですね。
陳偉星氏:もちろん最初はそんなに修正しようとは考えていなくて、本当に一部だけを設計し直したんですよ。ところが、それを実際にゲーム内に組み込んでみると、ここも直したほうがいいんじゃないか、これもやりたいと言い出して。それらを作り直して入れると、それに合わせてここも直したほうがと、どんどん大きくなっていって、その結果ほとんど作り直すことになりました。
――宗教が絡んでいたり、人間同士の勢力の争いがあったりと、シリアスな大人向けのストーリーとなっていますが、こういった内容にした理由を教えてください。
陳偉星氏:ストーリーの担当はひとりで、最初にいろいろ意見を交換したんですが、考え方やロジックがしっかりとしていたので完全に彼に任せました。
――前作の「まじかるブラゲ学院」はライトでしたので、ずいぶん落差を感じました。
陳偉星氏:ストーリーの担当者が違いますからね。それと「まじかるブラゲ学院」のときは、ストーリーの担当者が東洋文化と西洋文化を融合させることを第一に考えていました。舞台も魔法学院なので、明るく楽しいというのをメインに設計したわけです。今回の「ソラノヴァ」の担当者は宗教や歴史が好きな人だったので、それらの要素を盛り込んだストーリーになりました。
――フルHD出力に対応した「FUN2.0エンジン」というもので開発したとのことですが、これはどのようなものなのですか?
陳偉星氏:実のところ、このエンジンに関してはそれほど重要なものとは考えていません。エンジンはあくまでゲームを作る基礎で、その上にいろいろな機能…グラフィック、音楽、遊び方などを乗せていってひとつの芸術作品を完成する。エンジンは基礎機能を提供し、さらにその上にビルを建てるようにいろいろなものを積んでいくのだと、そのように考えています。
――フィールドでの戦闘をエンカウント方式にした理由を教えてください。
陳偉星氏:キャラクターの移動時間を短縮していろいろなことができるようにと考えて、ひとつのマップを小さめに設計したんですが、そこにモンスターをいっぱい配置すると、すごく目障りというか画面が混乱しているように見えてしまいます。ですから、フィールドでは各ユーザーのキャラクター、ボス、NPCしか見えないように設計しました。これなら画面がスッキリしますからね。課金することで、モンスターと出会わないようにする機能も提供しています。移動するたびにモンスターに会ってひっかかるのが気になるという人はぜひ利用してもらえたらと思います。
――多彩なイベントも本作の特徴のひとつですが、本国では何が人気ですか?
陳蕾氏:ボスを倒すイベントです。ボスを倒すためにはユーザー同士がパーティーを組まなければならないので、それによってユーザー間の交流が高まります。経験値もたくさん手に入るので、すごく楽しまれていますね。日本で実装されるかは分かりませんが、サーバー間の対戦も人気です。シンガポールなどとの国際対戦のようなものも実施しています。海外のユーザーがどのような装備をしているかなどが分かるので非常に好評ですよ。また、季節や祝日に合わせたイベントも多数実装しています。
――ユーザーの年齢層や男女比などは分かりますか?
陳偉星氏:ユーザーの年齢などの統計を取っていないので正確なことは分かりませんが、感覚では20歳前半くらいがメインになっているのでは思います。
――中国でも女性のユーザーは増えてきているのでしょうか?
陳蕾氏:ゲーム上では男性と女性が半々くらいなんですけど、実際の性別は分かりませんね。ですから、中国ではゲーム内で友達を追加するとき本当に男性か女性か確認することもあるようです(笑)。
異性のキャラクターと婚約・結婚できるように!
――本作を日本で展開するにあたってベクターさんに特に要望したいことは何ですか?
陳蕾氏:実務的な話になるんですが、今後の長期的なバージョンアップの計画を知りたいですね。ほかの運営会社にも同じことを要求しているんですけど、国ごとにゲームのバージョンが違うので、バージョン管理のために早めに知っておきたいなと思います。
中国でもレベルのキャップを少しずつ上げているんですが、すぐにキャップに到達してしまうようだとユーザーが飽きてゲームをやめてしまうので、それをすごく心配しています。ですから、そのあたりのデータを運営側と共有して、ユーザーの動向を見ながらキャップを上げるタイミングを見極めたいと思っています。
陳偉星氏:それと、日本で流行っているゲームや遊び方とか、グラフィックの傾向といった情報もぜひいただきたいなと思っています。
――日本向けのキャラクターイラストを初めて見たときの感想を聞かせてください。
陳偉星氏:クオリティがとても高く、キャラクターの表情から感情が湧いているのを感じました。中国では無表情なキャラクターが多く、このように感情を持たせたものがなかなかないので、すごくいいなと。自分たちのゲームのキャラクターになっていることを光栄に思います。それと、このキャラクターをデザインしてもらうのにかかったコストにもすごく興味があります(笑)。その辺のお話も聞かせてもらえたらうれしいですね。
――「ソラノヴァ」で今後実装予定のイベントや新機能を明かせる範囲で教えてください。
陳蕾氏:まずは「婚約機能」ですね。ゲーム内では好きな異性のキャラクターに告白できるのですが、さらに婚約してその2か月後に結婚できるといった告白→婚約→結婚というものの実装を予定しています。ペット機能やアバター機能も強化していきます。特にレベルが一定以上になるともらえるアクセサリーのツバサとキャラクターの乗り物ですね。今のところこのふたつは強化できないのですが、今後はこれらを強化する機能を追加していく予定です。
当然、新しいダンジョンの追加も考えていて、すでにふたつは開発中です。また、レベルのキャップも現在は80ですが、さらに100、120と20レベルごとに上げていくことになると思います。
――それでは最後に日本のファンに向けてメッセージをお願いします。
陳蕾氏:「ソラノヴァ」の世界にようこそ! 未知の大陸での冒険と恋愛をぜひ楽しんでください!!
――ありがとうございました。
(c) Funcity Technology Co., Ltd