2013年1月17日より正式サービス開始となったベクターのブラウザMMORPG「デーモンハンティング」。この話題作について、開発元の鄭 林氏と禹 維朴氏にさまざまなお話を聞かせてもらったのでお届けしよう。
「デーモンハンティング」はブラウザゲームとは思えないほどの美しい3D映像が話題を呼んでいるMMORPGだ。冒険の相棒となるさまざまなペットの登場、MMOならではのPvP要素、強力なボスとのバトルやダンジョン攻略などボリュームもたっぷりで、さまざまなプレイを楽しむことができる。
そこで今回、本サイトはこの「デーモンハンティング」を開発した中国の北京天成勝境社(Beijing Leeuu Technology社)の鄭 林(Zheng Lin)氏と禹 維朴(Yu Weipu)氏にインタビューを実施。本作の開発秘話や今後の展開、中国のゲーム市場の動向などについて語ってもらった。
開発のスピードアップとコスト削減の両方を実現
――まずは、北京天成勝境社について教えてもらえますか。
鄭氏:2005年に設立して、今年で8年目になります。技術者メインの会社で、最初に制作したのは農場系のソーシャルゲームだったんですが、これが好評で約3万人の最大同接を記録しました。次に制作したのは「竜銃」(2009年5月サービス開始)という3DのMMORPGです。これは中国で初めてのブラウザ型の3Dゲームで、台湾や東南アジアでも運営したのですがユーザーから高い評価をいただきました。
「デーモンハンティング」はこの「竜銃」の開発で得たノウハウをもとに制作しています。「竜銃」を制作したとき技術的にいろいろ不足していた部分がかなり改善されて、完成度がさらに高くなっています。
――「デーモンハンティング」についてですが、まず日本以外で運営している国と現在の運営状況を教えてもらえますか?
禹氏:海外では北米、ベトナムで運営を開始していて、そのほか数カ国とも現在交渉中です。北米では去年の12月末に運営を開始しましたが、テストとしてひとつのサーバーに1万人を招待したところ500人以上の同接がありましたので、なかなかいいスタートを切れたのではないかと思っています。
中国国内ではふたつのサーバーが開設中ですが、中国の大きなポータルサイトとの連携も予定していまして、そこからが本格的なスタートだと考えています。中国では1カ月に1000万元(約1億3千万円)の売上があるかが成功の目安になっていて、自分たちもそこを目指していますが、現在までのデータから見てそれ以上になると予想しています。
――かなり手応えがいいようですね。
鄭氏:はい。同時接続数のデータも安定していて、まずは成功と考えています。
――開発にはどのくらいかかりましたか?
鄭氏:一昨年の7月に開発がスタートしたので約1年半…正確には15カ月くらいですね。プログラムもグラフィックもほとんどすべて自社で担当しているので、短期間で完成させるためにかなり頑張りました。
――会社の規模は60人くらいとお聞きしましたが、よくそんな短い期間で完成させられましたね。
鄭氏:私たちは少数精鋭の信頼できる仲間たちでやっていくことをポリシーにしています。ただ人を増やしても、全員がそのプロジェクトに参加できるわけではありませんし、かえって人件費がかかりますからね。
禹氏:さらに言うと、この会社は技術者の仲間たちで設立したんですが、最初から自社の開発エンジンができていたんですよ。少数の人間でゲームを作れるシステムがあったので、それによってかなり人的コストを抑えられました。
鄭氏:サーバー技術も最初のソーシャルゲームを開発した時点でできあがっていました。そういった、すでに完成していたものを組み合わせることによって、スピードアップとコストダウンを実現したわけです。
禹氏:それと、最初から開発環境やノウハウがあったわけですから、1年半という開発期間は決して早かったとは思っていません。むしろ、かなり時間をかけたと言えますし、それによって完成度も高くなったと自負しています。
――本作をプレイするには「GboxII」という3Dの映像プラグインのインストールが必要ですが、このような形にした理由を教えてもらえますか?
鄭氏:この技術はすでにWindowsから広く提供されているので、インストールしなくてもプレイすることは可能です。ただ、提供されているものがまちまちなので、環境によってはログインできないなどのトラブルが起きる恐れがあります。そういった事態を防いで、すべてのユーザーが確実かつ快適に遊べるようにするため、事前にダウンロードしてもらうことにしました。
禹氏:インストールするシステムのサイズもかなり軽くしました。ユーザーのハードを圧迫するようなことは一切ありませんので、安心してプレイしてもらえたらと思います。
鄭氏:ただ、将来的にはやはりユーザーがブラウザを立ち上げたら、すぐプレイできるようにしたいですね。社内でいろいろ研究していますし、Windowsから今後新しい技術も提供されるでしょうから、それほど先のことではないと思っています。
あらゆる世代、国、地域に受け入れられるものを目指す
――ゲームに登場する建物や植物などの形状がメルヘンチックで、かなりユニークだと感じました。なぜ、このような世界にしたのでしょうか?
鄭氏:あまり映像がかわいすぎると大人のユーザーに子どもっぽいと思われますし、かといってリアルすぎると子どもに敬遠されてしまいます。私たちは幅広い層がプレイできるゲームを目指していますので、子どもでも大人でも受け入れられるようにと考えて、このようなグラフィックにしたわけです。
禹氏:海外で展開することも踏まえました。当然、国や地域によって好みの差はあるわけですが、それでも最大限どこでも受け入れられるようにと。これも重要な理由のひとつですね。日本の「かわいい」とはちょっと遠いかもしれませんが(笑)、受け入れてもらえる範囲だと考えています。
――初めてプレイしたとき、かなりグラフィックが北米的だと思ったのですが、その理由が分かりました。
禹氏:このプロジェクトがスタートしたとき、鄭さんが方針を決めたのです。中華風にしすぎず、欧米系のファンタジー路線でいこうと。
――中国では原色を使った鮮やかな色合いが人気だそうですが、本国での評判はどのようなものだったのでしょうか?
禹氏:中華風のゲームに慣れたユーザーにはかえって新鮮だったようです。それと、中国のユーザーはグラフィックに対する要求があまり高くないんですよ。数値などのパラメーターを重視していると言いますか、どうやって勝つかが第一で、ゲームの背景やストーリーなどはあまり気にしないことが多いんです。
――ペットの存在が本作の大きな特徴になっていますが、この部分に特に力を入れた理由を教えてください。
禹氏:ペットというと単に「かわいい」だけだったり、ちょっと物を拾ってくれるだけといったものが多いのですが、「デーモンハンティング」では乗り物やアバターなど、あらゆる要素を集中させたメインのひとつとしてユーザーに提供したいと考えました。もちろん、ゲームの売上の部分でもメインになってほしいと思っています。
――ということは、やはり課金すると豪華なペットを入手できるといったサービスも考えているんですよね。どのようなペットが登場するか教えてもらえませんか?
禹氏:もうすぐ中国では旧正月なので、本国ではそれに合わせて「麒麟」の実装を予定しています。
――テストプレイではドラゴンを操作させてもらったのですが、こちらも本国のファン向けですか?
鄭氏:いえ、ドラゴンは欧米のファンに向けて実装したんですよ。欧米のかたはアジアの竜とかが、すごく好きらしいんですね。
――翼の動きが細やかで驚きました。ちなみに、ペットに関して裏話や開発秘話などはありますか?
禹氏:今の動きを表現できるようになるまで何度も修正をしていまして、開発エンジンにも手を入れたこともありました。なかなか求めている動きが実現できないので、昼食抜きでひたすら皆で会議をしたこともありました。会議では鄭さんが強くて、私の提案はよく拒否されましたよ(笑)。
鄭氏:開発段階ではふたりでよくケンカをしましたね。一番ひどかったときは午後3時から夜の9時まで。ほかの人は私たちが言い争っているから帰れなくて、ずっと黙ってガマンしているんです(笑)。しかも、結論が出なくて「じゃあ、続きは明日!」となったりして。
日本のユーザーの嗜好に合わせてPvPのルールを調整
――本作にはさまざまなPvPも用意されていますよね?
禹氏:中国のユーザーはPvPがかなり好きなので、これをメインにしました。ただ、国や地域に合わせてルールは変えるつもりです。特に、日本はPvPに抵抗感のあるユーザーが多いとのことなので、ベクターの要望や日本の市場に合わせた変更・調整を考えています。
――なるほど、分かりました。ただ、PvPが好きなファンもたくさんいますので、日本で実装を予定しているPvPのイベントがありましたら教えてください。
禹氏:とりあえず、日本では通常マップで強制PKはできないようにして、代わりに闘技場のような場所ではギルド単位やパーティー単位でも戦えるようにしようと考えています。
ギルド同士で城を奪い合う攻城戦の実装も予定しています。参加したプレイヤーは10回まで復活可能なのでたっぷりバトルを楽しめますよ。さらに、勝ったギルドはその城の市場でほかのプレイヤーがアイテムなどを買うと税金を徴収できるといった特典も用意しています。
鄭氏:負けたギルドも参加賞がもらえるようになっています。負けても損失はまったくないので、どんどんチャレンジしてほしいですね。
――ほかの国のPvPへのスタンスで特別な違いなどを感じたことはありますか?
禹氏:北米でもPvPはメインになっていませんし、強制PKを4回くらいするとしばらく何もできなくなるなどのペナルティもあります。ただ、PKに対する日本のような抵抗感はまったくないですね。
鄭氏:実は、最初にベクターさんから「PvPの機能を停止してほしい」という要望があって、すごく驚いたんですよ(笑)。PvPはこのゲームのメインのひとつですから、「これを停止したら今後どうするの?」と。すごく悩んだんですが、ベクターさんのほうもそこは承知してくれていて、闘技場のようなところに限定するということで落ち着いたわけです。
――そんなことがあったんですか。では、逆に日本で運営するにあたってベクターさんに要望することはありますか?
鄭氏:私たちは日本の市場の傾向やユーザーの習慣・好みといったものを知らないので、そういった情報をぜひ提供していただきたいですね。
禹氏:プロモーションの拡大などユーザー獲得の部分でも大いに期待しています。もちろん、日本市場で成功するため、自分たちも全力でバックアップさせていただきます。
――日本で予定している今後の「デーモンハンティング」の展開を少しでもいいので教えてもらえますか?
禹氏:レベルキャップの解放や新しいマップの追加は当然予定していますし、日本のユーザーに向けたオリジナルのサービスも計画しています。
鄭氏:もちろん、日本でなじみのある動物やキャラクターをペットとして実装することも考えていますので期待していてください。
中国ではブラウザゲームとモバイルゲームの市場が急速に成長
――現在の中国市場の傾向を教えてもらえますか?
鄭氏:4~5年前まではクラサバ(クライアントサーバー型)ゲームが主流だったんですが、ブラウザゲームもすごいスピードで成長しています。逆に、クラサバゲームはあまり成長が見られなくてユーザーの要求が高くなった分、開発がすごく難しくなっていますね。
ブラウザゲームはちょうど2Dから3Dに移り変わっているところで、いずれ3Dが主流になるでしょう。ただ、今一番成長しているのはモバイルゲームです。成長スピードがブラウザゲームを上回っているので、数年後はモバイルゲームがメインになる可能性があると考えています。
禹氏:2012年の中国におけるゲーム市場全体の売上は約561億元(約7000億円)なんですが、その中でブラウザゲームは約81億元(約1000億円)と、かなり大きな割合を占めていて今後も成長していくと考えられています。モバイルゲームも市場全体に占める売上の割合が毎年ほぼ倍になっていて、今後も同じペースで増えていくんじゃないでしょうか。
鄭氏:逆に、家庭用ゲームは年々縮小しています。さすがに、なくなるということはないでしょうが、もう市場は成長しないでしょう。特に、中国ではモバイルの普及にともなって、DSとかPSPといった携帯ゲーム機が消えていってるなと感じています。
――それではやはり、Leeuu社でも今後はスマートフォンなどのモバイルゲームに力を入れていこうとお考えですか。
鄭氏:もちろんです。すでにモバイル向けに技術研究を初めていますし、開発も計画しています。
――現在のブラウザゲームのようなものがスマートフォンでもプレイできるようになるということですか?
鄭氏:PCのブラウザゲームをそのままモバイルに持っていくことは考えていません。PCとは遊び方や操作の仕方が違いますし、ユーザー層も異なってくるでしょうから、モバイルの環境に合わせた調整や新しい技術の開発が必要になるでしょうね。
禹氏:私たちはiOSとAndroidのユーザー層の違いなども調査した上で、どのようなモバイルゲームを作るか考えています。また、他社でもすでにやっていますが、モバイルとPCを連動させて遊ぶような環境も提供したいですね。
――現在の中国のユーザーの気質について、よいところ悪いところ含めて意見を聞かせてください。
禹氏:よく中国のユーザーは忠誠度が低くて、すぐプレイするのをやめてしまうと言われていますが、私はユーザーが悪いのではなく中国の市場の成熟度に問題があるのだと思っています。
現在、中国では1年間に数百タイトルものブラウザゲームがリリースされていて、クオリティもかなりバラツキがあるんですよ。面白くなかったら、ほかにもたくさんのゲームがあるんですから、すぐにやめて別のものを探すのは当然でしょう。それが、忠誠度の低くなっている一番の原因ではないでしょうか。ただ、中国ではお金をかける人は本当にお金をかけてくれます。ここは中国のユーザーのいいところですね(笑)。
――日本のユーザーはどのように見ていますか?
鄭氏:「デーモン~」の運営が始まったばかりなので詳細はまだ分かりませんが、ベクターさんからはユーザー同士で協力して何かをやるのは好きという人が多いと聞いています。
禹氏:日本はコンシューマゲームがすごく進んでいるので、この環境でプレイしている日本のユーザーの質も高いと思っています。ただ、中国や韓国に比べるとネットゲームをプレイしている人は少ないですから、この部分はまだまだこれからじゃないでしょうか。
――よく分かりました。では、現在開発中のタイトルや今後のプロジェクトの内容を明かせる範囲で教えてもらえますか。
鄭氏:今のところ3Dブラウザゲームを2本開発中です。以降の計画は白紙ですね。現在開発中のゲームが完成する頃には市場も変化しているでしょうし、それに合わせて自分たちも変わっていかなければなりませんから。ただ、会社としては今後開発したゲームがすべてのデバイスの上で遊べるようになればと考えています。
禹氏:2013年は「デーモンハンティング」のバージョンアップや今後の運営などに集中ですね。このゲームを成功させることが今年のメインになります。
――最後に日本のファンに向けてメッセージをお願いします。
鄭氏:皆さんの期待に応えられるように頑張りますので、ぜひ「デーモンハンティング」を体験してみてください。
禹氏:日本のユーザーさんのために全力で頑張りたいと思っています。ぜひ楽しんでください。
――ありがとうございました。
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