ベクターが運営するカードバトルゲーム「ディヴァイン・グリモワール」。このゲームの開発元である火元素社の呉哲氏と王卓氏にインタビューを行ったので、その内容をお届けする。
ベクターの運営する「ディヴァイン・グリモワール」は、タワーディフェンスタイプのブラウザカードゲームだ。プレイヤーは人間、精霊、獣人などのユニットが描かれたカードを集めてデッキを組み、それらを駆使してさまざまな戦いに挑んでいくことになる。
集めたカードでいろいろなタイプのデッキが作れるほか、カード合成や競売所でのカード取引などもできるなどカードゲームならではの面白さが満載。刻々と戦況が変化していくバトルもシンプルながら戦略性が高く、遊び応えは十分だ。また、ひとりでじっくり楽しめるメインクエストやオンラインならではの対人・協力戦といった各種モードも充実している。
3月27日に大型アップデート「ラビのたわむる大地」、4月上旬にニコニコアプリでのサービス提供開始も予定されている本作だが、これらの実施の前に、開発元である火元素社の副総裁&ゲームディレクターの呉哲(Wu Zhe)氏とチーフオペレーティングオフィサー(COO)の王卓(Wang Zhuo)氏にお話をうかがう機会を得ることができた。本稿では、その内容をお届けしていこう。
「面白いカードゲームを作る」ことが共通の目標
――まず、おふたりの経歴を教えてください
呉氏:ゲーム業界に入ったのは2004年です。テンセントなどの開発会社でMMORPGに関する業務を担当したあと、2011年に火元素社を設立したんです。
王氏:私も2004年にゲーム業界に入りました。最初に入ったのは北京のキングソフトという会社で、おもにMMORPGのプロモーション業務を担当していました。また、いくつかのMMORPGの運営業務の経験もあります。そのあと、火元素社に入りまして「ディヴァイン・グリモワール」のプロモーション業務などを担当するようになりました。
――おふたりはもともとお知り合いだったのですか?
呉氏:ええ。火元素社を設立する前からの友人でして、その頃から「面白いカードゲームを作る」という共通の目標がありました。
王氏:どちらもカードゲームが好きだったんですよ。大学時代からずっとプレイしていまして、プレイ歴はだいたい10年くらいです。
―――どんなカードゲームをプレイしていたか、教えてもらえますか?
呉氏:「魔獣世界」ですね。MMORPGタイプのゲームなんですが、カードゲームの要素も含まれているんです。それと、「マジック・ザ・ギャザリング」です。
――やはり、カードゲームの大会にも出場されたりしたのですか?
王氏:ええ、よく一緒に参加しました。「マジック・ザ・ギャザリング」の全国大会で15位くらいに入ったこともありますよ。
――それはすごいですね。
呉氏:中国はカードゲームがまだ一般的ではなく、当時はユーザーもかなり少なかったんですよ。ですから、日本のユーザーのほうがもっと強いというイメージがありますね。
――なるほど、分かりました。では、火元素社の活動内容を教えてもらえますか?
呉氏:現在のおもな業務は3つで、ひとつは「ディヴァイン・グリモワール」の開発・メンテナンス及び日本、ヨーロッパなどへの他国展開です。もうひとつは「ディヴァイン・グリモワール」のモバイル版の開発。3つめは新規タイトルの開発です。
――設立時の社員は何人くらいだったのですか?
呉氏:当初は5人だけで、半年後に10人くらいになりました。今は50人ほどです。
王氏:私は「ディヴァイン・グリモワール」のクローズドベータテストを開始する頃に加わりましたが、そのときは14人でしたね。
――「ディヴァイン・グリモワール」は現在何カ国で展開されているのでしょうか?
呉氏:運営を開始しているのは中国、台湾、日本、香港、マレーシア、ドイツの各国/地域で、タイでもまもなくクローズドベータテストを実施します。また、ベトナムやドイツ以外のヨーロッパの国でもローカライズを行っています。
――モバイル版も開発しているとのことでしたが、ブラウザ版との連動などは考えておられますか?
呉氏:いえ、そういったデータの連動などはないので、ブラウザ版をプレイしている方もゼロからスタートすることになります。ただ、ブラウザ版をベースにして、モバイルの特徴も考えた上でいろいろな調整を行いましたので、十分に楽しんでもらえると思います。もちろん、オンライン対戦もできます。
王氏:対応OSはiOS4.33以上になる予定です。今リリースされているバージョンのOSなら問題なくプレイできますよ。
10人ほどの開発スタッフが6~7カ月で制作
――それでは「ディヴァイン・グリモワール」の開発の経緯を教えてください。
呉氏:火元素社設立の前からすでに企画がありましたので、会社の立ち上げからだいたい半年くらいの2012年1月にクローズドベータテストを行うことができました。同じ年の3月にオープンベータテストを行って、そのあと他国に展開していったわけです。
――かなり開発期間は短かったんですね。
呉氏:そうですね。だいたい6~7カ月くらいです。開発人員は10人くらい。ただ、グラフィックは外注です。
――なぜ、それほどの少人数で短期間に完成させることができたのでしょうか。
呉氏:ゲームを作る際には、まずゲームの方向性を決めなければいけないのですが、多くの場合は途中で方向性が変わるなどして何度も作り直したりします。その点、我々は最初にきちんと目的を決めて、まったくブレませんでしたから半年ほどでゲームを立ち上げることができたんです。
――ブラウザ型を選択した理由を教えてください。
呉氏:より多くの人にプレイしてもらいたかったからです。ブラウザ型ならネット環境があれば誰でもすぐにプレイできますからね。コストが抑えられることや、近年はクライアント型よりもブラウザ型のほうが流行っていることも大きかったです。
――ベースはカードゲームですが、そのほかにもさまざまな要素が入っていますよね?
呉氏:先ほども言いましたが、中国ではカードゲームはさほど一般的ではありません。ですから、カードゲームにあまり馴染みのないユーザーの興味を引くために、RPGやタワーディフェンスなどの要素を入れたわけです。
王氏:プロモーションもカードゲームとして宣伝するのではなく、シミュレーションや戦略ゲームの部分を前面に出していますので、低年齢層のユーザーや女性ユーザーはカードゲームではなく、タワーディフェンスのゲームとして認識しているようです。
――タワーディフェンスをメインの要素にした理由を教えてください。
呉氏:ユーザーの操作を簡単にするためです。実際、本作はカードでユニットを召喚して、フィールドを進ませていけばいいので、複雑な操作はまったく必要ありません。
――多彩なモードが用意されていますが、ひとりプレイ用のメインクエストが特に充実していると感じました。
呉氏:対人戦は敗北したときの挫折感が大きいので、ユーザーの流失につながるのではという懸念がありました。そこで、ひとりでも楽しめるようにして、ユーザーにゲームシステムに慣れてもらってから対人戦をやってもらえるようにすることで、ゲーム離れを防ごうと考えたわけです。
――メインクエストの難易度の調整の部分で気をつけたことは何ですか?
呉氏:ずっと簡単なままですと、かえってユーザーが疲れてしまうので、適度に難しくなるように難易度のバランスを調整しました。そのほうが、ユーザーの心を引きやすいんですよ。ブラウザゲームは簡単に始められますが、ユーザーが止めてしまいやすいという側面もあるので、いかにユーザーの心を引くかという部分を特に重視しました。
――ユーザー同士の協力プレイも特徴のひとつと思いますが、なぜ、この要素も取り入れようと思われたのでしょうか?
呉氏:ユーザー間のコミュニケーションを活性化させるためですね。協力プレイはMMORPGではよく見られる要素ですが、カードゲームにはあまりないものなので、ぜひ取り入れたいなと思いました。
――協力プレイ時にフィールドがユニットで埋め尽くされても、ゲームの動作が重くなるようなことはほとんどありませんでした。このような安定した動作を実現する上で、特に気をつけたことは何ですか?
呉氏:この点については技術メンバーに感謝ですね(笑)。ユーザーにストレスを与えないよう、プログラム面でいろいろ工夫をしてくれました。ユニットの画像のデータ量を最小限に抑えて、かつ、動きがちゃんと見えるような映像を作り出してくれたグラフィックチームにも感謝したいです。
――ところで現在のカードの種類はどのくらいですか?
呉氏:だいたい300枚ぐらいです(3月27日のアップデートの時点)。
――それだけのカードを作り出すのは大変だったでしょうね。
呉氏:カードの設計は私ともうひとりのスタッフのふたりで行っていまして、私たちが設計したものを社内でプレイしてもらって、ほかのスタッフたちの意見を聞いた上で調整するという形を取っています。カードを考案するときには数値だけではなく、新しい種族にするなどカードの特徴・特性も出すように心がけていますね。また、掲示板やコミュニティなどのユーザーの意見で、いいアイディアがあれば取り入れることもあります。
王氏:中国では、特定のユーザーのゲーム中でのキャラクター名を強力なレアカードの名前にするというイベントも行いました。チャンスがあれば日本でもぜひ実施してみたいですね。
――面白いイベントですね。カードの名前になるユーザーはどのようにして決めたのですか?
王氏:ゲーム内のランキングで特定の順位のプレイヤーですとか、ゲーム中でよく知られている有名なプレイヤーなどを選びました。
日本と中国のプレイヤーの特徴と違い
――日本と中国でプレイスタイルなどの違いを感じることはありますか?
呉氏:まず、中国のユーザーはPKが好きですが、日本のユーザーはあまり好きではないというイメージがあります。
――PKについては、海外の開発者は皆さんそのように感じるようですね。
呉氏:それから、中国のユーザーはバグがあればそれをプレイで利用しようとしますが、日本のユーザーは運営会社に問い合わせや指摘をしてくれることが多いです。また、実際に日本のサーバーに入ってチャットでコミュニケーションを取ってみたんですが、日本のユーザーは本当に礼儀正しかったです。このことも、かなり印象に残っていますね。
王氏:また、中国の場合は1日に10万人くらいがログインすることもあるんですが、けっこう流出率も高いんです。日本の場合はログイン数は中国より少ないんですけど、流出率が低いので日本のほうがきちんと遊んでいってくれているイメージがあります。
――中国版と日本版のゲーム内容は同じなんですか?
呉氏:少し調整した部分はありますが、基本はまったく同じですよ。
――ベクターからの要望で何か印象に残っていることはありますか?
呉氏:ローカライズの際にゲーム内のテキストを翻訳してもらって、それをこちらでゲーム内に取り込んだあと、チェックのためにベクターさんに戻したんですが、ちょっとした細かい間違いもすべて発見してくださいました。よく見つけるなあと感心しましたね。
――中国のユーザーは誤字をあまり気にしないのですか?
呉氏:そうですね。シナリオとかはほとんど見ないで、とにかくゲームをプレイするという人が多いです。
王氏:逆に、日本のユーザーはゲームの世界観やストーリーをかなり重視しているという印象があります。私はいろいろな国の運営会社と提携した経験がありますが、日本からだけ世界観のシナリオを提供してほしいという要求があって、ほかの国からは何も言われなかったということもありました。
――やはり日本はけっこう特殊なんですね。ちなみに、日本市場は開発段階から視野に入っていたのでしょうか?
呉氏:いえ、当時はまったく意識していませんでした。
――では、日本からアプローチがあったとき、どのように思われましたか?
呉氏:大変うれしかったですし、少しビックリもしました。会社の規模は小さいですけれど、斬新なゲームを作ろうという当社の方針が正しかったのだと実感しましたね。私は日本のゲームが好きで、ずっとプレイしてきたので日本のユーザーが自分の作ったゲームを好きになってくれればすごくうれしいです。
――よかったら好きな日本のゲームを教えてもらえますか?
呉氏:「ファイナルファンタジーVI」です。ストーリー、グラフィック全部好きですね。
王氏:私はガンダムファンなので「スーパーロボット大戦」シリーズが特に好きです。
大型アップデートの実施とニコニコアプリでのサービスについて
――3月27日に大型アップデート「ラビのたわむる大地」が実施されますが、今回の一番の目玉はどこでしょうか?
呉氏:冥霊族と獣人族の新カードの追加と新たなダンジョン「地下墓地」の実装ですね。新たに追加されるカードの種類は40枚ぐらいです。
――プレイヤーレベルの上限も50から60になりますが、レベルのアップ値を決める際には、どのようなことを判断材料にしているのでしょうか。
呉氏:ユーザーの平均レベルを分析しますね。キャップ解放のスピードが早すぎるとユーザーに余計なプレッシャーを与えることになるので。かなり慎重に上げていっています。
――ギルドイベントの追加など、ユーザー同士のコミュニケーションに関する要素も多いように感じました。今後はこの部分も注力していくということですか?
呉氏:そうですね。その方向で進めていきたいと思っています。また、日本のユーザーの意見や要望なども取り入れていきたいと考えています。
ここで、ベクターより4月上旬からニコニコ動画内のニコニコアプリで「ディヴァイン・グリモワール」のサービス提供を開始することについて説明があった。ベクターによると、本作はかなり成功しているタイトルなので、さらに売上を伸ばすため、より大きなポータルサイトへの提供を決めたのだという。
――ニコニコ動画のことはご存じだったのでしょうか?
呉氏:知っていましたし、ときどき見ることもあります。実は中国にAcFunというニコニコ動画に似た動画サイトがありまして、そことチャネリングしたところ、かなりユーザーを獲得できたんです。ですから、我々としても今回のニコニコアプリ版の公開には、かなり期待をしています。
――そもそも、なぜ動画サイトとチャネリングしようと思ったんですか?
呉氏:AcFunのユーザー層と「ディヴァイン・グリモワール」がターゲットとしている層が一致していることが特に大きかったですね。
王氏:対戦動画や攻略動画などをアップしたり、生配信をしてもらったりしてゲームをさらに盛り上げてもらえればという考えもありました。やはり動画はよい宣伝になりますからね。
――よく分かりました。それでは今後の展開について教えてください。
呉氏:これからも大型アップデートを定期的に行っていく予定です。もちろん、細かなバージョンアップも随時行っていきます。特に、カードの更新は以前よりも早い速度で実施していきたいですね。また、中国ではすでに新たなアップデートが行われています。このバージョンはいろいろな新要素が追加されているので、こちらもなるべく早く日本のユーザーに体験してもらいたいですね。
――それは興味深いですね。どのような内容か、教えてもらうことはできませんか?
呉氏:詳細は明かせませんが、戦闘時にフィールドを変化させるさまざまな新スキルが追加されます。戦略性がさらにアップするので、ぜひ楽しみにしていてください。もちろん、新たな種族もどんどん追加していく予定です。
王氏:また、これはまだ企画の段階なのですが、他国のユーザー同士の対戦を行っていくことも考えています。他国のユーザーとのコミュニケーションが取りやすくなりますし、自国以外のプレイヤーのデッキの組み方や戦略の立て方などを見ることで、対人戦のレベルも上がりやすくなるのではと考えています。
――ところで、新規ゲームを開発中とのことでしたが、これもカードゲームなんですか?
呉氏:カードゲームの要素は入っていますが、RPGやSLGなどの要素もあります。現在の完成度は約50%で、今年の8月の完成を目標に制作を進めています。
――次回作も完成が早そうですね。それでは最後に日本のファンにメッセージをお願いします。
呉氏:日本のユーザーの皆様からの支持に感謝いたします。これからも努力して、日本の市場やユーザーに合うものをどんどん追加していきたいと思っています。また、ベクターさんには日本のユーザーから意見があれば、ぜひ我々に伝えてもらいたいと思います。
王氏:国同士の対人戦を実施したときに、日本のユーザーがいい成績をあげられるように祈っています。
――本日はありがとうございました。
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