カプコンが2013年12月19日より正式サービスを開始した「百年戦記 ユーロ・ヒストリア」。今回、プロデューサーの杉浦一徳氏にインタビューする機会が得られたので、その内容をお伝えしよう。
「百年戦記 ユーロ・ヒストリア」は、中世ヨーロッパをモデルにした、架空の世界「ユーロ大陸」での英雄たちの戦いを描いた“愛と悲しみの中世騎士道シミュレーションRPG”だ。
カプコンが昨年からサービスを開始している「鬼武者Soul」とは、世界観はもちろん、システムも大きく異なる本作。今回、プロデューサーの杉浦一徳氏にインタビューを行い、本作を開発することになった経緯や、ストーリーやキャラクターの魅力、さらには今後の展開など、さまざまな質問をぶつけてきた。
――まず、なぜ中世ヨーロッパという世界観でゲームを作ろうと考えたのでしょうか?
杉浦氏:企画当初の話をすると、中世ヨーロッパからさらに遡って、アーサー王を中心とした物語にしようかと考えていました。しかし、アーサー王の物語は既存のゲームに多く用いられているし、差別化を図るのは難しかったのです。
そんな時期に「ウルトラストリートファイターIV」のアシスタントプロデューサーを務めている部下の綾野(綾野智章氏)から、佐藤賢一氏の「傭兵ピエール」という小説を勧められたんです。「傭兵ピエール」はジャンヌ・ダルクが描かれている歴史小説ですが、この時代やキャラクターに凄く魅力があって、私自身も「この時代なら充分面白いゲームの世界観が作れそうだ」と感じました。
その後は勉強を兼ねて、「双頭の鷲」をはじめとした、中世ヨーロッパを舞台にした小説を読み漁りましたね。元々、すべてを史実通りにするつもりはなかったので、小説などの創作物から刺激を受けることが多かったです。
――既存IPを使うのではなく完全新作にしたのも、思い描いた世界観を表現するためだったのでしょうか?
杉浦氏:そうですね。騎士道シミュレーションというジャンルを考えても、カプコンのIPを持ってくるのは難しいと考えました。
――「鬼武者Soul」など、既存タイトルで得たノウハウはどのように活かされていますか。
杉浦氏:もっとも大きいのは箱庭のローディングの軽さだと思います。「鬼武者Soul」ではローディングの重さが指摘されていましたが、本作では改善しています。また、「鬼武者Soul」はスキル構成で勝敗が変わるシステムにしていましたが、今回もその経験を活かして、面白い形にしようと考えていましたし、箱庭の楽しさも失わないように努めました。
加えて、世界観の表現方法に関しても、「鬼武者Soul」から学んだことはあります。日本とヨーロッパという違いはあるものの、「鬼武者Soul」も「百年戦記 ユーロ・ヒストリア」も、戦乱の時代を描いていることに変わりはありません。あの戦乱の時代の偉人たちから私たちが何を学べるのかという意味でも、また純粋なゲームとして魅力あるストーリーをお届けするという点でも、この世界観の舞台は満足いただけると思います。
――先日(11月1日~11月6日)には先行体験テストが実施されましたが、ユーザーからの反響はいかがでしたか?
杉浦氏:当然といえば当然ですが、「鬼武者Soul」の第1回クローズドβテストに比べると格段に良い評価をいただきました。ユーザー様は主に箱庭づくりを楽しんでいたようで、私たちの想定通りの動きでしたね。また、うまくスキルを組み合わせたり、強い部隊を作ったりと、早い時期から熱心にプレイしている方もいました。
――参加者の層としては、「鬼武者Soul」のプレイヤーが多かったのでしょうか?
杉浦氏::「鬼武者Soul」のプレイヤー様は3 割程度でした。やはり、ゲームシステムよりも世界観に魅力を感じて、触っていただけたのではないでしょうか。元々私たちも「鬼武者Soul」とは違うユーザー様に遊んでほしいと考えており、あくまでもヨーロッパの世界観が好きという方に集まってほしかったのです。なので、この結果には手応えを感じています。
――ゲームを遊んでみると、物語の中心にジャンヌ・ダルクが大きく存在している印象を持ちました。
杉浦氏:私が1人のユーザーとしてゲームを客観視したとき、やはり強い女性の騎士は魅力的に映るんですよ。そこを一番に推したいという気持ちはありました。
――音楽ではクラシックを全面に取り入れるなど、かなり力を入れているかと思いますが、クラシックを採用した理由は何かあるのでしょうか?
杉浦氏:アニメの「銀河英雄伝説」であったり、アトラス様から発売された「キャサリン」であったりと、クラシックを効果的に使っている作品は私自身とても好きなので、私個人としてもクラシックを使った作品をいつか作りたいと考えていました。
そのため、ヨーロッパを舞台にした本格的な中世のゲームを作るのであれば、クラシックを取り入れたいと前々から構想していたのです。
――音楽の構想と、世界観の構想が一致して生まれたのが「百年戦記 ユーロ・ヒストリア」だったと。
杉浦氏:そうなりますね。サウンドディレクターには「この場面ではこの音楽を使ってほしい」と、うるさく要望を出しましたし、それだけこだわった部分です。
陰謀が渦巻く、ドロドロしたストーリーを描きたかった
――では次に、ストーリーについてお話をお聞かせください。先行体験テストでは一端しか垣間見えませんでしたが、本作のストーリーにはどのような魅力があると考えていますか?
杉浦氏:簡単に言うと、陰謀渦巻くドロドロしたストーリーが売りです。「ゲーム・オブ・スローンズ(Game of Thrones)」のような、海外の連続ドラマが好きな方であれば確実に楽しめると思います。
――ドロドロしたストーリーとなると、やはり史実だけでなく、ゲームオリジナルの展開もあるのでしょうか?
杉浦氏:ドロドロした展開は、歴史に大きな影響を与えない箇所で見せようと考えています。そのため、歴史の大筋を変えることなく、うまくユーザー様に楽しんでいただけるのではないかと思います。
――では、百年戦争の歴史自体は、そのまま楽しめるのですね。
杉浦氏:ええ。百年戦争の中で起こった大きな戦いはしっかりと再現されています。もちろん、そこで活躍した人物も登場しますし、ゲームだからといって、整合性の取れない物語にはしていません。
とはいえ、史実自体がはっきりしていない箇所については、私たちなりの解釈を取り入れています。また、宗教に絡むエピソードやセリフだけはオリジナルの内容に変えています。宗教に関する話題は日本人が思う以上にナーバスなもので、少し勉強したくらいでは難しいですね。
――ちょっとした一言でも、タブーに触れる可能性はありますからね。
杉浦氏:まずは日本でサービスをするわけですし、あくまでも日本のユーザー様が楽しめる中世ヨーロッパを作りあげようと考えました。その中で、あえて宗教に挑戦する理由は薄いかと思います。
――たくさんの英雄が登場する点も魅力ですが、百年戦争の時代からは外れた英雄もいるのでしょうか?
杉浦氏:登場します。百年戦争のメジャーな英雄だけでゲームとして成り立たせようとするとキャラクター数が足りないですし、だからといってマイナーな人物を無理やり入れても、ユーザー様は感情移入できませんからね。ただ、百年戦争以外の英雄は、普通に入手できるわけではなく、特別なイベントなどで徐々に手に入るようにします。
――時代の違う英雄同士が会話をするシーンもあるのでしょうか?
杉浦氏:少しはありますね。史実を元にしたゲームなので、事前の歴史考証は行いましたが、すべての物語を歴史どおりにやっても面白くないですよね。ですから、ある程度史実から外れても問題ないイベントに関しては、活躍した時代の違う英雄の会話を楽しめるはずです。歴史ファンであれば、英雄が意外な登場のしかたをしてニヤリとできる展開もありますよ。
――英雄というと、デザインもかなり力を入れている印象でしたが、こだわった点は何かありますか?
杉浦氏::開発中に訪日されていたこともあって、ジョン・ジュノ氏やキム・ヒョンテ氏といった、韓国でも1、2 位を争うイラストレーターの方にデザインをお願いすることができました。彼らの人気はもちろん、実力という意味でも申し分ないですし、私自身からぜひともとお願いさせていただきました。
ジョン・ジュノ氏はリアルなタッチが特徴で、3 人の主役を担当しています。私からはキャラクターの設定について説明を少ししたくらいで、自由に描いてもらいました。そしてキム・ヒョンテ氏は、ジョン・ジュノ氏とはまた違った、アニメ風のイラストを得意としています。キム・ヒョンテ氏が描く女性は非常に魅力的なので、まずはじめにジャンヌ・ダルクのイラストを依頼しました。
ですから、こだわった点となると、ヨーロッパの騎士や貴婦人をうまく表現できるイラストレーターの方を探し、お願いしたことに尽きますね。
――今後、意外性のある漫画家やイラストレーターとコレボレーションする予定はあるのでしょうか?
杉浦氏:当然準備しています。できるだけ作品の方向性や世界観に合う方とコラボレーションできたらと考えており、すでに発表している小林智美氏、末弥純氏以外にも、「エルシャダイ」など、多彩なコラボレーションを行う予定です。
――「エルシャダイ」となると、かなり意外性のあるコラボレーションになりそうですね。
杉浦氏:意外性はありつつも、世界観にはしっかりと合っていると思います。今後も似たような形で、ユーザー様が楽しめるコラボレーションを進めていきます。
――ちなみに、杉浦さんが気に入っている英雄はいますか?
杉浦氏:もちろんジャンヌ・ダルクも好きですが、「双頭の鷲」の影響もあって、ゲクラン元帥は気に入っています。主人公の3人は非常に魅力がありますし、それを支えた人物にも思い入れがあります。
それと、個人的にmujiha 氏の描くイラストがとても好きなので、遊んでいる最中にmujiha氏のキャラクター限定部隊を作っていましたね(笑)。
「鬼武者Soul」とは大きく異なる戦闘システム
――バトルシステムだと、フォーメーションなど「鬼武者Soul」とは違った部分が目立ちますね。
杉浦氏:スキルなど「鬼武者Soul」と似せている部分もありますが、本作ではスキル以外の部分で戦闘に面白さを出したいという意図がありました。フォーメーションを取り入れたことで、より戦略的で、深みのある戦闘になったと思います。
――デフォルメのキャラクターが登場するのも特徴的ですが、こちらはどのような経緯で搭載したのですか?
杉浦氏:単純に、開発チームにデフォルメキャラを得意としているスタッフがいたからなんです(笑)。モバイルのソーシャルゲームだと全体設計を先に決めることが多いですが、PCのブラウザゲームは、良いアイディアであれば開発途中であっても随時入れていくスタンスです。デフォルメキャラも、ぼんやりと企画にはあったものの、実際に採用することになったのは、開発段階でデザイナーがイラストを持ってきてくれたからなんです。
――システムだけでなく、グラフィックや演出面でも「鬼武者Soul」との差別化が図られていますよね。
杉浦氏:世界観を変えつつ、鬼武者Soul の姉妹作的な感じで開発していたのでシステムはあちこち似せているのですが、ユーザー様がもっとも遊ぶのは戦闘だと思いますし、そこが既存タイトルと全く同じではさすがに進歩がないという想いでした。なので、演出に関しては特にこだわりましたね。
――バトルシステムは、既存のタイトルと比べて少し複雑な印象を受けましたが、これから遊ぶ人へのアドバイスはありますか?
杉浦氏:既存のタイトルだと、強い英雄を揃えてしまえば、あとは勝ち進めるゲームバランスが多かったと思います。しかし本作はローテーションによる戦略や、強力なスキルのおかげで、考える必要性が非常に強くなっています。そうなると、デッキのどこに誰を置くかだけでなく、相手の動きを読むことも重要になりますね。
これから遊ぶユーザー様には、相手との駆け引きが大切であることをいち早く気づいて欲しいです。ここに気づかないと、なかなか勝てないと思いますが、そこで諦めずに「どうして負けたんだろう」と検証することをおすすめします。
――パラメータの強い英雄が、必ずしも有利なわけではないと。
杉浦氏:もちろん序盤は強い英雄を揃えれば、勝率も上がるかと思いますが、周囲のユーザー様が慣れてくると、簡単には勝たせてくれないはずです。そうなったら、スキルの使い方などの戦略に目を向けてください。
ちなみに、正式サービス時には迎撃部隊の戦闘のリプレイ機能も実装予定です。これは、「なぜ負けたのか」を研究する際に役立つと思うので、ぜひ使ってみてください。
――では、バトルのひとつである「百年戦争」について教えてください。こちらは多人数が参加するコンテンツですが、独自の要素はあるのですか?
杉浦氏::他社様のすべてのゲームを遊んだわけではないので、「絶対に独自です」、とは言い切れませんが、「連勝ランキング」は私たちなりに考案して実装したものになります。また、百年戦争の時代背景を知っていればさらに楽しめるコンテンツなので、ところどころに解説が入るようにしています。
――本作では戦闘以外に、領地作りも大きな魅力だと思います。特にグラフィックが美しい印象でしたが、気を使った箇所はありますか?
杉浦氏:イラスト風の「鬼武者Soul」とは違って、リアルなグラフィックを追求しました。建物ひとつひとつをリアルに創り込んで、中世ヨーロッパの雰囲気を強く出せるように努めました。実は元データは3D です。
――花畑など、色使いもかなり鮮やかですよね。
杉浦氏:皆様がイメージするヨーロッパの宮殿というと、やはり宮殿の周りにある壮大な庭園だと思うんですよ。本作では、皆様が何かのTV 番組で見たそういう風景に、頑張って近づけています。
――なるほど。では領地に建設できるランドマークで注目してもらいたいものはありますか?
杉浦氏:私自身が一番こだわって作ったのはお城です。本作の最初に入手できる城は決して豪華ではなく、武骨で質実剛健ですが、その分、中世時代の渋い雰囲気がそれなりに出ていると思います。そのほか、ピサの斜塔は作りづらかったこともあり、思い入れが強いですね。ピサの斜塔の実物は非常に高い建物なうえ、ご存知の通り斜めになっていますよね。それを箱庭に合った大きさで再現するのは難しかったです(笑)。
気になる正式サービス後の展開は?
――今後実装予定のコンテンツについて、教えていただける範囲でお聞かせください。
杉浦氏:まだ具体的な内容まで発表していませんが、大規模イベントとして“遠征軍派遣”や“幻獣討伐戦”を用意しています。あとは、英雄の成長要素をさらに拡張していきたいです。いずれにせよ、まったく新しいコンテンツを入れるというより、既存のコンテンツに新しい楽しさを付け加えていく方向で運営していきたいですね。
――「鬼武者Soul」とは違った、とおっしゃりましたが、逆に「鬼武者Soul」で人気だったコンテンツを実装する可能性はありますか?
杉浦氏:充分ありえる話だと思います。例えば「鬼武者Soul」では巨大悪鬼羅刹を倒すイベントが人気なので、本作でも“幻獣討伐戦”は巨大悪鬼羅刹を参考にしています。また、「鬼武者Soul」では戦闘と内政の関係性が薄かったので、本作は内政のパラメータがしっかりと反映される要素をゲーム内に取り入れたいですね。
――今後の話となると、他作品とのコラボレーションは考えていますか?
杉浦氏:そうですね。自社タイトルだと「デビルメイクライ」や「魔界村」といった、世界観を壊さない作品とコラボレーションする予定で、キャラクターを英雄として実装できればと考えています。他社コラボレーションに関しても、先ほどお話した「エルシャダイ」以外のコラボレーションも着々と進んでいます。
――課金については、どのような体制になるのでしょうか。
杉浦氏:開発チームと話し合った結果、今回はガチャを見送ることになり、課金アイテムは行動ポイントの回復薬のみです。その代わり、回復薬の価格は「鬼武者Soul」よりも高くして、100円での販売を予定しています。
――ガチャがなくなるということは、代わりとなる英雄の入手方法も用意されているのですか?
杉浦氏:はい。基本的にはイベントなどのコンテンツから、豊富に入手できるようになります。
――ちなみに、本作を海外で展開する予定はあるのでしょうか?
杉浦氏:海外のカプコンスタッフが凄く興味を持ってくれているので、海外展開をするならまず海外支社からだと思います。それ以外の地域は反響次第ですね。サービスを始めると海外からのアクセスも多数ありますし、海外企業からのオファーもあります。それを考査して、展開するつもりです。
――本作の舞台となっているヨーロッパで展開したい気持ちはありますか?
杉浦氏:実は、ヨーロッパへの思いはそれほど強くないんですよ。私たちはこの作品に自信を持っていますが、現地の人が見たら、やはりどこかに違和感を覚えてしまうと気になっているんです。戦国時代のゲームを海外で開発しても我々が違和感を持つような超えられない壁のような。それでも、ヨーロッパの方から「遊びたい」という声をいただければ、展開を考えたいですね。
――最後に、正式サービスを楽しみにしているファンへのメッセージをお願いします。
杉浦氏:PC ブラウザゲームとしてはかなり異色な作品で、シミュレーションゲームファンの方以外でも、幅広く遊べる作品となっています。プロモーション映像やイラストから興味を持ったライトユーザーの方でも充分に楽しめますし、一方で本格的なゲームを楽しみたい方も戦闘のかけひきなどは満足できるはずです。
まずは中世ヨーロッパという世界観が好きな方に遊んでもらいたいという想いで開発しました。中世ヨーロッパ好きのアツイご意見ご要望もたくさん頂戴してより良いゲームをユーザーの皆様と作り上げられるようにします。無料で充分楽しめるゲームですので、最初は気軽にプレイしていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
――ありがとうございました。
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