PCオンラインゲーム業界を牽引するネクソン。同社のPCオンラインゲーム事業がどのように展開していくのか、運用チームのトップにインタビューを実施した。
ネクソンといえば、PCオンラインゲーム業界を代表する企業で、「メイプルストーリー」や「マビノギ」といったRPGタイトルのほか、「カウンターストライクオンライン」「サドンアタック」などのFPSなど多彩なオンラインゲームを長年にわたって提供している。2016年秋以降はPC向けに「ツリーオブセイヴァー(ToS)」と「攻殻機動隊 S.A.C. ONLINE(S.A.C. ONLINE)」をリリースしている。
OnlineGamerとしては、スマートフォン向けゲームが目立つ中、PCオンラインゲームの動向が気になるところだ。そこで、ネクソンで運用本部 運用部 部長を務める山﨑克臣氏に、ネクソンの現状やPCでの今後の展開などについて聞いた。
オンラインゲームの黎明期を経験
――山﨑さんはネクソンでどのような業務を行ってこられたのでしょうか?
山﨑氏:入社してすぐに「タクティカルコマンダー」を担当することになりました。ひとりで韓国とのブリッジ業務や運用業務、ウェブサイト更新のほか、ユーザーサポートも行っていました。
――「タクティカルコマンダー」というとコアなユーザーが多そうなイメージです。ひとりで全ての業務を担当するのは大変だったのではないでしょうか?
山﨑氏:面白くもありましたがハードでした(笑)。ゲームのアップデートからウェブサイトへの掲載やサポート対応まで、関連する全てを一人でやっていたので、一貫した方向性は打ち出せており、大変ではありましたが、やりやすかったですね。
その後、タイトルが増えるにつれて、GM業務を兼任しつつ、サポートチームや課金チームを作るといった組織の統括寄りの業務を行うようになりました。
2003年に「メイプルストーリー」の日本サービスが開始するタイミングでゲーム運用チームが作られ、そのリーダーに就きました。リーダーではありましたが、「メイプルストーリー」のプロダクトマネージャーも兼任していましたね。
その後は、僕の役職が上がっていくにつれて、チームや部が作られていき、現在に至ります。
――長年運営してきた中で、大変だったことは?
山﨑氏:大変だったことはいろいろありましたね(笑)。子供のプレイヤーが多かった「メイプルストーリー」では、アカウントハックが起きた際に、ご両親が会社に訪ねてこられたことがありました。「アカウントが止められてしまって、どうすればいいですか?」とのことで、不正行為があった旨を伝え、対策手順などを説明させていただきました。当時は、会社に来て意見を言いたいという方もたくさんいらっしゃいましたね。
大変なこともありましたが、ユーザーの皆さんと非常に近い距離で運営してきて、苦労しつつも楽しく業務を行っています。
――嬉しかったエピソードはいかがでしょう?
山﨑氏:先日「マビノギ」でユーザーインタビューをする機会があったのですが、「マビノギ」内で出会って実際に結婚された方や、結婚する予定という方たちがいらっしゃいました。披露宴でも「マビノギ」色の濃い演出を行ったようです。
また、2016年のオフラインイベントで開催したコスプレコンテストで優勝した方も結婚されるとのことで、韓国開発チームと運営チームから祝福の言葉が添えられた「マビノギ」サウンドトラックをお送りしました。運営しているゲームがきっかけとなっての結婚ということで、開発チーム、運営チームも共に喜びを分かち合う事ができました。
――まさにオンラインゲームの黎明期を経験されてきたんですね。
山﨑氏:もともと「ウルティマオンライン」などを遊んでいてオンラインゲームに興味を持っていた中で、ネクソンの求人を見つけて入社しました。まだ、日本でサービスされているオンラインゲームは数えるくらいしかなかったのですが、当時ネクソンは「風の王国」をサービスしていました。
「メイプルストーリー」では、アイテム課金や日本のPCオンラインゲーム初のガチャ、MTS(メイプル・トレード・スペース)というゲーム内アイテムとネクソンポイントを交換できるサービスなどを導入しましたし、振り返るといろいろとやってきましたね。
――「メイプルストーリー」のように10年以上にわたってサービスを続ける秘訣は何でしょう?
山﨑氏:もちろんゲームそのもののクオリティは必要となりますが、それに加えて、ユーザーがどんなコンテンツに時間を使っているのかといった動向に注目し、次にどんなコンテンツを入れればよいのか、ライト層をコア層に引き上げるにはどうしたら良いのか、といった考えを常に行うことです。
当時はTwitterなどのSNSサービスがなかったので、匿名掲示板などからユーザーの意見を吸い上げていました。匿名掲示板だと率直な意見がたくさんあったので参考にしていました。
――運営チームから開発チームに意見を届けても対応してくれないといった話も聞きますが、いかがでしょう?
山﨑氏:初期から比べれば、だいぶスムーズになったと思います。「メイプルストーリー」であれば、さまざまな国で展開しており、各国からいろんな意見が届きます。各国の意見を取り入れながら、よくこれだけのものを作れているなと感心しています。
――ユーザーからの要望で国ごとの違いはありますか?
山﨑氏:国ごとに傾向はあります。韓国や中国だとPvPコンテンツが求められますし、日本だとPvPには一定の制限がほしいといった意見が多いです。「アラド戦記」の「決闘」などは、日本・韓国・中国で盛り上がり方が全く異なっています。
――「テイルズウィーバー」や「マビノギ」では毎年オフラインイベントを行っていますが、どんな効果を期待していますか?
山﨑氏:大きなアップデートを控えているタイミングで開催しており、その情報を公開することで、既存ユーザーのみならず休眠ユーザーへのアピールの場となることを期待しています。オフラインイベントに参加しようと思うユーザーは、とてもコアな方なので、そのようなユーザーに対する還元であったり、直接意見を聞くことのできる重要な場です。
――毎年、コスプレステージも盛り上がっていますね。
山﨑氏:はい、クオリティが高いんですよね。とても愛情を感じますし、コスプレは運営側が用意していないコンテンツではあるものの、盛り上がるのでとてもありがたいです。
――オフラインイベントの会場には運用メンバーも来ているのですか?
山﨑氏:はい、そのタイトルを担当している運用やプロモーションのメンバーは全員会場にいます。
――日本のPCオンラインゲーム業界では、新作が少なくなり、少しさみしい印象です。
山﨑氏:以前であれば、さまざまな企業が新作タイトルをリリースしていました。最近では、小さい規模の企業だとPCオンラインゲームの新作提供が難しくなり、モバイルにシフトするケースも増えてきました。
PCオンラインゲームの先進国である韓国や中国もモバイルにシフトしている会社が増えている状況です。当社も、一時期はモバイルに注力した時期もありました。PCオンラインゲームの開発も進めていたのですが、「PCオンラインゲームの開発はしていないのではないか?」と囁かれていたほどです。しかし、韓国では今でもPCオンラインゲーム市場が大きく、2015年頃からは再びPCオンラインゲームにも、より一層力を入れるようになりました。
今では、開発元であるネクソンコリアがPCもモバイルも同じように力を入れて開発を進めています。そういった意味では、パイプラインがしっかりしているので、今後もネクソンとしてはPCオンラインゲーム市場にクオリティの高いタイトルを提供していけると考えています。
――コンソールやモバイルなどでもオンライゲームを遊べるようになりましたが、PCならではの強みはどこでしょうか?
山﨑氏:通信や描画の面でモバイルで高いクオリティのMMORPGを動作させるのは難しいと感じています。
また、コンシューマーであれば、本体以外にヘッドセットやキーボードといったコミュニケーションをするためのデバイスを追加購入しなければなりません。
PCの出荷台数は減っていますが、家庭にPCがあることは一般的ですし、当然マウスとキーボードがついています。ノートPCであればマイクも内蔵しています。このようにゲームをプレイするのに必要なデバイスが揃っている点が強みだと考えています。
あとは、ネクソンが推し進めてきたFree To Playタイトルの多さですね。ネットに接続すれば、無料で遊べるタイトルがたくさんある点が魅力だと思います。
最新作の現状について
――今年は「ToS」「S.A.C. ONLINE」をリリースされましたが現状はいかがですか?
山﨑氏:「ToS」は、初期のサーバーは少し混雑しているものの、比較的プレイしやすい状況になっていると思います。サービス開始当初は問題もありましたが、それらを解決しながら現在に至っています。
――サービス自体は安定してきましたか?
山﨑氏:まだ、安定と言い切れる状態ではありませんが、アップデートを行うにつれて安定に向かっています。
――この盛り上がりは想定通りでしたか?
山﨑氏:個人的な見解ですが、想定していた2倍以上のユーザーが集まったので、想定以上です。
――「ToS」のどんな点が評価されたのだと思いますか?
山﨑氏:本作を開発したキム・ハッキュ氏のタイトルが日本でも成功し、長年多くのユーザーに親しまれている実績もあり、「ToS」にもサービス開始前から大きな期待が寄せられていました。
「メイプルストーリー」もそうですが、長年運営しているとシステムを上積みしていかなければならず、どんどん変化していきます。初期のプレイヤーが今の「メイプルストーリー」を遊んだ時に、はたして同じタイトルだと認識してくれるのかというとなかなか難しいと思います。
「ToS」は、古き良きオンラインゲームの良さを再現したタイトルで、その頃に楽しんでいたユーザーが昔を懐かしんで遊んでいるようです。そのようにユーザーが望んでいることと、タイトルがマッチしたのだと思います。
――「S.A.C. ONLINE」はいかがですか?
山﨑氏:「S.A.C. ONLINE」はIPの力がとても強く、今までオンラインゲームを遊んでこなかったたくさんの方にもプレイいただけました。僕もそうなのですが、「攻殻機動隊 S.A.C.」を見ていた世代は30~40代が多く、普段はFPSを遊んでいない人も多いと思うんです。
「S.A.C. ONLINE」ではアニメと同じ声優を起用したこともあり、普段FPSを遊ばない世代の人たちにも楽しんでもらえているようでよかったです。
――「S.A.C. ONLINE」は海外の一部地域でSteam向けに配信されています。Steamのプラットフォームについて、どのように見ていますか?
山﨑氏:世界的に見るとSteamはPCオンラインゲームの最大のプラットフォームで、北米ではネクソンも利用しています。日本では、Steamを遊び倒している人と、聞いたことはあるけど触れたことのない人に2分されると思います。日本でもいずれ北米や欧州と同じようなプラットフォームになっていくのではないでしょうか。ただ、ネクソンとしては、すぐに日本でSteamを使うことを検討しているわけではありません。機会があればぜひチャレンジはしてみたいと思っています。
――日本でゲームポータルを展開するネクソンとしてはSteamは競合となるのではないでしょうか?
山﨑氏:認知度の差もあり、日本だとまだ競合にはなっていないと思います。
PCオンラインゲーム事業の今後
――今後、ネクソンのPCオンラインゲーム事業をどのように展開されるのでしょう?
山﨑氏:グループ会社を中心に展開することにはなりますが、まだ韓国のPCオンラインゲーム市場が大きく、引き続きPCタイトルの開発を行っています。日本でのPC出荷台数は減っていますが、すでにどの家庭にもPCがあると思います。今後も、ネクソンの作る様々なPCオンラインゲームを提供していきたいと思います。
――ネクソンでサービスされているPCオンラインゲームのほとんどは韓国で開発されたタイトルです。今後、北米や欧州で開発されたタイトルをパブリッシングする可能性は?
山﨑氏:予定があるわけではありませんが、今後、可能性としてはあると思います。
ただ、韓国は日本のアニメなどに影響を受けて、日本に向けたタイトルを開発することが多いため、日本での展開がとてもしやすいです。北米などのタイトルの場合は、グラフィックの面で、日本の一般層に広めるのが難しいと感じています。フライトゲームのようにキャラクターが前面に出ない作品であればいけるかもしれませんね(笑)
――日本のユーザーにマッチしたタイトルであれば、サービスする可能性もあるということですね。
山﨑氏:グラフィックの好みが異なっていても、ゲームの本質的な面白さがあり、日本でも成功する可能性があると思えれば、サービスすることもありえます。
――PCと同じサーバーのオンラインゲームが遊べるようになるマルチプラットフォーム化の可能性は?
山﨑氏:PS4などはPCと同等の性能がありますし、ゲームパッドにあわせたゲーム設計ができているタイトルであれば、開発チームもマルチプラットフォーム化を考えていると思います。まだ、確定したことはありませんが、数年前に比べるとマルチプラットフォーム化の話をよく聞くようになりました。
――スマートフォンはいかがでしょう?
山﨑氏:スマートフォンよりは、コンシューマーのほうが現実的かと思います。コンシューマーには、既存のタイトルが対応する可能性だけでなく、今後リリースされる新作タイトルが対応する可能性もあります。
――それだけコンシューマー市場が魅力的ということでしょうか?
山﨑氏:PCとコンシューマーにそれほど差がなくなったことが大きいです。ゲームパッドに対応できるのであれば、PCだけでリリースするのは少しもったいないような気がします。
――PCオンラインゲームのユーザーを増やすための取り組みは?
山﨑氏:日本のユーザーが望んでいるゲームを、高いクオリティでリリースすることが一番だと思います。たとえば、「ファイナルファンタジーXIV(FFXIV)」がリリースされた際に、「FFXIV」を遊ぶためにPCを購入した人が多くいました。それだけ期待される作品であればPCを買うと思うんです。そういう行動を起こさせるだけのゲームを作っていくことが一番だと思います。
――今後のPCオンラインゲーム業界はどのようになりますか?
山﨑氏:ネクソンが提供しているPCオンラインタイトルの推移を見ていると、2015年までは全体的に下降傾向でした。それが、2016年に入ってから、好調なタイトルが出るようになりました。
市場全体に関して言うと、モバイルゲーム市場の拡大も落ち着きつつあります。遊びたいゲームがPCやコンシューマー、モバイルのどのチャネルに存在するのかを選べる状況になってきたのだと思っています。
スマートフォンに比べるとPCの課金単価は低く、長く遊んでもらえるタイトルが多くあります。長く遊ぼうと思った時にPCが選択肢に入ってくるのではないでしょうか。
――最後に読者にメッセージをお願いします。
山﨑氏:今後もネクソンはPCオンラインゲームの提供を続けていきますし、日本のユーザーが受け入れてくれるようなタイトルをチョイスして提供していくつもりです。PCオンラインゲーム市場全体を見ると縮小傾向にあるかもしれませんが、ネクソンとしては今後も新規タイトルをどんどんリリースしていく予定ですので、期待していてください。
――ありがとうございました。