「ファイナルファンタジーXIV」(以下、「FFXIV」)の二作目の拡張パッケージ「紅蓮のリベレーター」。発売から約一年、満を持してパッチ4.0~4.3までの楽曲を全て収録したサウンドトラック「STORMBLOOD: FINAL FANTASY XIV Original Soundtrack」(以下、「STORMBLOOD」)が2018年7月4日に発売になる。これにあわせて、サウンドディレクターの祖堅正慶氏と、メインシナリオライターで楽曲の発注も担当する石川夏子氏にインタビューを実施した。
本インタビューでは、「紅蓮のリベレーター」の主にパッチ4.1~4.3までの楽曲について、実際にサウンドトラックを聴かせてもらいながら、作曲の製作秘話などを語ってもらった。
※なおこのインタビューでは、4.31までのメインシナリオやレイドコンテンツのネタバレが含まれているため、まだクリアしていない方はご注意願いたい。
「THE PRIMALS」のライブツアーは、韓国で想定外の盛り上がり!
――まずは現在全国ツアー中(※インタビュー日は2018年6月8日)の「THE PRIMALS」についてお伺いします。東京、愛知、大阪、韓国とここまでやってきて、手応えはいかがですか?
祖堅正慶氏:全力でやってるんで、大変です。来てくれた人がそれで盛り上がってくれたら嬉しいな、という感じですね。
――ファンフェスとの違いって感じますか?
祖堅氏:やっぱ違いますね。ファンフェスの時とは規模も違いますけど、今回は「THE PRIMALS」の音楽興行として行っているので、お客さんも「THE PRIMALS」そのものを見に来てくれているから、一体感があるというか。
お客さんが光の戦士であり、かつ音に興味があるひとたちというか、少なからず音に思いがある人たちが集まっているんで、ファンフェスで見た一体感を更に上回る一体感みたいなのはあったと思います。なので僕らもすごく楽しんでやらせてもらっていますね。まだ札幌があるんで、そこに向けて調整していくっていう感じです。
――東京以外の会場のみで演奏した曲はありますか?
祖堅氏:ありますが、そこは来た人のみのお楽しみということで(笑)。
――一番盛り上がったと感じる会場はありましたか?
祖堅氏:どこも盛り上がっているのですが、あえて挙げるなら韓国が凄かったですね。お客さんの熱量がすごすぎました。演奏中、僕らはイヤーモニターを着けて外の音の情報をシャットアウトし、演奏するための情報しか聞こえない状態で演奏しているんですけど、あまりの歓声にそのシャットアウトする機能が効かなくて、音程とリズムが取れなくて、内心で実はすごく「やべえ」ってなってました(笑)。あの熱量は、ゲームへの愛なんでしょうか。本当にすごかったです。
――祖堅さんが演奏していて一番楽しいと感じる曲ってどれですか?
祖堅氏:全部必死なんで、僕が演奏しないで見ているだけの曲は楽しいですね(笑)。
――思っていたよりもこの曲随分盛り上がったなっていう曲はありましたか? 東京では「美の謀略 ~蛮神ラクシュミ討滅戦~」かなと思ったんですけれど。
祖堅氏:そうですね、ラクシュミかなぁ。
石川夏子氏:会場が昆布になりましたしね(笑)。
祖堅氏:あとは「メタル:ブルートジャスティスモード〜機工城アレキサンダー:律動編〜」ですかね。
――ラクシュミダンスって、他の会場でも発生しました?
祖堅氏:漏れなく全部なりました(笑)。何の説明もしていないのに(笑)。一体感半端なかったですよ。
――サプライズ的にこれまで披露してこなかった最新の蛮神の曲をやらないかなと思っていたんですが、これは次回のライブまでお楽しみということで…?
祖堅氏:さぁそれはどうでしょうねぇ(笑)。
――「THE PRIMALS」のライブの時って、ペンライト振っている人と拳をあげてる人とで分かれていましたけど、ステージからペンライト以外って見えるものなんです?
祖堅氏:見えてますよ。なので、自分の好きな手段で楽しんでもらえればいいです。ペンライトを振りたい人は振ってくれればいいですし、拳突き上げたい人はそうしてくれればいいです。ペンライトの色を替えて合わせるのが楽しいっていう人もいますから、各々が楽しんでもらえればそれでいいです。
――今のオメガの曲とかって基本的に植松伸夫さんの曲じゃないですか。これらの曲を「THE PRIMALS」でバンドアレンジする可能性もありますか?
祖堅氏:「THE PRIMALS」は、来てくれたお客さんのゲーム体験を音に乗せて蘇らせて、それで一体感を得られるバンドとしてやっています。あくまで皆さんのゲーム体験が主役なので、お客さんが「このコンテンツのこの曲が好きなんだ」という声さえあれば、その曲をやるという感じです。誰が作ったかとかは関係ないですね。
――植松さんもご自身でバンドをやられてますけれど、植松さんのバンドとの対バンとかもあったら面白いなって思うんですけれど。
祖堅氏:お客さんが「やってくれー!」ということであれば、それはもう。以前に植松さんとも「今度なにか一緒にやろうよ」って話を頂いたりしたんで。
――それはちょっと期待してしまうお話しですね!
「紅蓮のリベレーター」の発売から約一年を振り返って
――とりあえず「STORMBLOOD」のお話しの前に、まさにいま旬の、これをお持ちしました(笑)。
石川氏:嫌な予感しかしない(笑)。
祖堅氏:オレオ(笑)。今日の昼飯かなぁ。
石川氏:せっかくだから、あちこちに並べておこう。最近すっかり我々はオレオの回し者か、みたいになってきました(笑)。
――今日は残念ながら、オレオのお話しはないのですが(笑)。さて、「紅蓮のリベレーター」の発売からほぼ一年、まずは振り返ってのご感想をお願いします。
祖堅氏:一年かかってすいませんでした(笑)。
石川氏:この一年でいっぱい作りましたね。
祖堅氏:別にいっぱい作ろうと思って作ったわけじゃないんですよ。
石川氏:パッチ4.1以降、「禁断の地 エウレカ」(以下、エウレカ)とか、シーズナルイベントにもダンジョンが入ってきたりとか、新しい試みをするコンテンツが入ってきて、それに伴って「パッチなのにすごい曲数あるんだけど!」っていう感じになっちゃって。毎回、「どうしよう…!」ってなりながら発注調整しています。
祖堅氏:今回の「紅蓮のリベレーター」っていう世界観は、これまでの「FFXIV」とは全然違う空気感や雰囲気なので、元々「紅蓮のリベレーター」の母体として作る曲自体もこれまでの延長線上で作るという感じではなかったんですよね。そもそも4.0の段階で、60曲くらいくれとか言われていたんですけれど。
石川氏:違いますよ! 最終的にそうなっただけで、発注数自体、最初は少なかったってば!(笑)
祖堅氏:何を言っているんだ(笑)。エクセルで、ぼーんとあったじゃねぇか(笑)。
石川氏:あったけど(笑)。
祖堅氏:エウレカだったりなんだったり新しいコンテンツもありますけど、「紅蓮のリベレーター」自体が新しいチャレンジだったので、端的に言うと難産でしたね。
石川氏:でも私の体感で言うと、祖堅さんはパッチ3.Xの時よりは難産が少なかった気がしますよ。
祖堅氏:一回取っ掛かりを掴んでからは早かったんですけれど、その取っ掛かりを掴むまでに時間がかかっちゃったんですよね。
――今回はパッチ4.0~4.3まで一気に収録するという、初めての形でリリースされますね。
祖堅氏:最初は4.0と4.1をまとめて出しましょう、くらいだったんですが、「それを出すときにもうゲーム本編は4.3なのに、4.3は入ってないの…またそのパターンかよ…」と、個人的にそれが嫌だったんです。
サントラ買うのに、一個前までのパッチしか入っていないのってテンション下がるじゃないですか。で、音楽出版部のメンバーに「なんとかならねーのかよ」と文句を言ったら、「祖堅さんが頑張ればいいんじゃないんですかね。僕らも腹を括るんで」って返ってきて(笑)。「じゃあ、やろう!」と、半ば強引に出すことにしました。
本当はこのサントラを、今年の東京ゲームショウ(2018年9月開催)に合わせて発売しましょうっていう流れだったんですけれど、その流れを断ち切りました。その日付だとパッチ4.3が出てから大分経っちゃってるしなぁ、っていう感じだったので。
――9月の後半だと、もしかしたらパッチ4.4が配信されるかも、くらいの時期かもしれませんしね(笑)。
祖堅氏:それはわかりませんけれど(笑)。でもパッチ4.3が配信されてから、できるだけすぐに出したい、と。そうしたら音楽出版部から、「わかりました。じゃあやれるとこからやっていきましょう。まずは年始早々にパッチ4.0のマスタリングを始めたいんですけど…間に合いますか?」って言われて、「上等だコノヤロー」っていう感じでしたね(笑)。
――これまで実装されてすぐの曲がこうやってサントラで聴けることがなかったので、ファンとしてはとても嬉しいですけれど。
祖堅氏:でも本当はそれが当たり前なんですよね。このBlu-rayミュージックって、CDに比べると作るのが結構大変で、更に今回みたいに100曲とかあると作業量が半端ないんですよ(笑)。だから個人的にはそんなに貯め込みたくはなくて、できれば50曲くらいで出したいんですけれど。そうすると、周りのスタッフも全員、ゾンビみたいになっちゃうんで(笑)。
でも今回は、去年の9月に「FINAL FANTASY XIV ORCHESTRA CONCERT 2017 -交響組曲エオルゼア-」っていうデカい興行があってそこに照準とリソースをかなり割いたんで、こっちになかなか手が回らなかったっていうのもあります。
僕はオーケストラコンサートの専門の人でもないし、サントラを作る専門家でもないし、僕の一番の仕事はゲームのサウンドを作ることなので、そこをおろそかにしてまでサントラやオーケストラコンサートは出来ないですし、ゲームサウンドをやりつつオケコンをやってサントラをやってってなると、どうしても出来る時間数は限られてしまいますよね。
皆さんは「もうちょっと早く出せよ~!」って思われるかもしれないですけれど、これでもかなり全速力でやっているのですみません。
――「STORMBLOOD」の中で一番評判が良かったなって感じる曲はどれでしたか?
石川氏:最近だと「月下彼岸花 ~蛮神ツクヨミ討滅戦~」ですよね。
祖堅氏:そうだね。ちなみにツクヨミの作詞は石川です。
石川氏:多分このインタビューが公開されるころに歌詞も公開されているかなと思いますので、歌詞も楽しんでいただければと思います!
祖堅氏:とりあえず「紅蓮のリベレーター」全体で見ると、やっぱ「龍の尾 ~神龍討滅戦~」かな!
石川氏:神龍ですねぇ。
祖堅氏:うちのプロデューサー(※吉田直樹氏)も神龍が好きでね。
石川氏:今だとこの曲を聞くと、「プロデューサーレターLIVE」(以下、PLL)の始まりかおしまいかなって思うようになってきちゃいましたよね(笑)。
祖堅氏:神龍って「紅蓮のリベレーター」の一応ラスボスですし、ああいうネタバレっぽい曲はPLLでは使わないんですよ。それは共通の方針のはずなのに、吉田Pが「どうしても神龍がいい」って、ワガママ通すもんだから(笑)。
――神龍は本当にかっこいいですから(笑)。あと、昔から「FF」をやっているファンの間では「妖星乱舞」も人気が高かったと思いますが。
石川氏:「妖星乱舞」は語れる思い出がいっぱいあるので、別コーナーにしましょう(笑)。
祖堅氏:純粋に自分が好きな曲を選ぶなら、僕は帝国版のアラミゴの歌(「我らが支配圏」)推しです。
石川氏:ゼノスが華々しく登場する時とかに流れている曲ですね。
祖堅氏:僕はこれが好きですね、あんま話題にならなかったけど(笑)。こういう曲を作りたかったんで、結構思い入れがあるんです。僕はあまり自分発信で曲を作ることが少なくて、ゲームにあわせて「こういう曲を作ってくれ」と頼まれたものを作ることが多いんですが、「FFXIV」でこれまで4~500曲作っている中で、こればっかりは初めて僕から「この曲を入れたい」ってワガママを言いました。500分の1とかのワガママですね(笑)。「帝国は偉大なり」っていうシーンで流してほしい、とお願いしました。
「妖星乱舞」は第4楽章だけをアレンジすると思った――「次元の狭間オメガ」関連楽曲について
――4.0の時には「月亮門 ~解放決戦 ドマ城~」のリテイクが多かったというお話しをされていましたが、パッチ4.1~4.3まででそういう曲はありましたか?
石川氏:パッチ4.1以降は割とすんなりいきましたね。4.0の時は試行錯誤でどうしてもリテイクが多かったのですが、4.0を通して開発メンバーの意識も揃ったので、あんまり「これどうするんだよ!」っていうのはなかったと思います。むしろ敵だったのは、数々の音楽興行とかで(笑)。
祖堅氏:ほんとそうですね(笑)。パッチ4.2辺りからはあまり悩んでないかなと思います。悩んだのはオメガまでかなぁ。あ、シグマは悩みました。
――シグマで悩んだんですか?
祖堅氏:過去作のアレンジっていうのは、新曲作るよりも難しいですよ。
石川氏:基本的な路線はデルタと変わらず原曲の雰囲気重視なのですが、祖堅さんが「決戦 ~次元の狭間オメガ:シグマ編~」でピアノ入れたところが個人的にとても好きです。
――あそこのピアノはシビれますよね!
祖堅氏:今言われるまで、「ピアノいれたっけ?」ってくらいにピアノパート入れたことを忘れてましたね(笑)。いつも時間に追われて作っているから、「どういう気持ちで作りましたか」って聞かれると、「必死だからわかんねーよ!」っていうのが正直な気持ちです(笑)。
石川氏:(サントラを聴きながら)ああ、ここですよね、ピアノのところ。これをもらった直後に祖堅さんのところに行って「ピアノのところ良かった!」って言ったら、「そこだけ入れた」って返されたのがすごい記憶に残ってますよ(笑)。
祖堅氏:聞いて、思い出しました(笑)。これは原曲がすごい短かったんで、そのまんまじゃ成り立たなかったんですよ。で、新しいメロディを足すか別のアレンジをつけてひとつにまとめるかっていうのをトライアルしていたときに、元々激しい曲だから二回し目にガラっと変えた静かなものをいれてみたらどうかなと思ったらハマったんで、こういう感じになったんですよね。
――ではオメガついでに、「妖星乱舞」についてもお伺いしたいのですが。
祖堅氏:「妖星乱舞」はやるんだろうなって思ってはいたんですけれど、第4楽章まであるじゃないですか。僕は、てっきりやるのは第4楽章だけだと思っていたんですよ。そうしたらゲーム中でも第1楽章の戦闘から全部やるっていうから嫌な予感はしたんですけど、案の定「曲も原曲通り、第1楽章から第4楽章まで全部くれ」と。
とりあえず「さすがにそれはねーよ」と文句を言おうと思って、石川のところに乗り込んだんですよ(笑)。だって第4楽章までですよ。ひとつのバトルにそんなにリソースを割くなら、その分他のコンテンツの曲を作れるじゃないですか。限られた時間でしか作れないから作れる曲の数には限界がありますし、「シグマの4層だけに四曲入れるとか、そこに本当にそんなリソースを割いていいの?」と。で、文句を言いに行ったんですが、結局はバトルチームと石川になだめられて作ることになりましたね。
石川氏:こちらとしてもすごい最後まで迷っていまして。かい摘んで第1楽章と第4楽章だけにする案もあったんです。でもどうしても半端になっちゃうし、BG班やキャラクター班が、一生懸命“神々の像”を「ゴゴゴゴ…」と動かしているのを見たら、これはもう音楽を変えないわけにいかないなと思って、他のところをやりくりしました。
祖堅氏:過去の「FFVI」のプレイ動画とかも確認しましたが、あの「ゴゴゴゴ…」ってところでプレイヤーはみんな「うおおおお!」ってテンションも上がっているし、まぁこれは外せないねって諦めはしたんですけど、それにしても四曲あるのもそうだけど、一曲ずつも長いんだよなこれ、と(笑)。
――ファンの立場からしても、「妖星乱舞」は手を出したらいけないところに手を出してしまった感はあります(笑)。
祖堅氏:でもいつかはくるっていう予感もしていた曲なのでね。
石川氏:「逆にこれ以上の曲数のボスはもういないんで」って祖堅さんをなだめました。「これをやっておけば、もうこれ以上辛いことはない!」って(笑)。
祖堅氏:本当に「これをやっておけば、もうこれ以上辛いことはない!」って一字一句変わらない発注がきましたからね(笑)。でもその「これ以上辛いことはない」っていう展開を、あえてここで持ってこなくてもいいじゃないのって(笑)。
あ、ちなみに第4楽章の出だしで、この曲を音楽単体で聞いた人からケフカの「イーッヒッヒ!」という声が入っていないってすごくたくさん言われるんですけれど、これ違うんです。零式4層に行った人だけが分かるんですが、行ったらちゃんと「イーッヒッヒ!」は入っているんですよ。それはぜひゲームをプレイして「イーッヒッヒ!」を確認してほしいと思いますね。いれてあるんですよ、タイミング良く。
石川氏:4層の、しかも第4楽章ですから、ハードルが高い(笑)。零式じゃないと聴けないですしね。
祖堅氏:でもそこまで辿り着けると、当時のものとおんなじ音が入っていますから。
より素晴らしいバトル体験のために、サウンドとバトル班が協力しあうことも。蛮神戦にまつわる様々な秘話!
――では続いて蛮神戦の曲についてお伺いしていきたいんですけれど、全体的に紅蓮の蛮神戦の曲はオリエンタルな感じで、白虎征魂戦は前半で雅楽で使われているような楽器とかを使っていましたよね。
祖堅氏:構成の話をすると、「紅蓮のリベレーター」で東方は結構出てくるので、こういう和楽器の種類自体はもう出尽くしていて、でもバトル曲にはあまり入れていなかったんですよ。
白虎をきっかけに、和の楽器とバトルっていう表現をうまく出せるような曲をなんとかして作らねばならんということで試行錯誤して、ここは結構難しかったですね。激しいギターを下に据えつつ、その上に和楽器たちが居る、というような感じで。和楽器って打楽器が多くて、音階を持つ楽器が実は琴と笛くらいしかないんです。
この白虎の前半戦(「天つ雷 ~白虎前哨戦~」)でポワーって鳴っているのは笙ですがこれも音階がある楽器じゃないので、音階を持っている楽器が二つしかない状態で、色んなパターンの曲を作るっていってもなかなかバリエーションが出せないんですよ。とにかくどうやったらバリエーションが出せるかっていうのを、ずっと模索していましたね。なのでバトル曲で和の表現は、本当に難しかったですね。
――こういう感じの曲にしてほしいっていうのは石川さんからの要望ですか?
石川氏:そうですね、このあと激しくなる戦いなので抑えめで、って言ったんですけど、抑えめで和でっていうとどうしてもバトルにはあわなくて、それがさっき祖堅さんの言った「和でバトルをどうするのか」っていうところで、結構相談しました。
ただやっぱり後半がギャンギャンしてるので、前半もギャンギャンしちゃうのはないな、と思って、祖堅さんと何度も相談して、最終的にこの絶妙な塩梅にまとめて頂きました。
――今、サントラの曲が白虎の落下フェーズの曲(「轟 ~白虎征魂戦~」)に切り替わりましたが、この音色は大正琴ですか?
祖堅氏:そうです、大正琴です。この履行中の曲は、やるやらないでの優先度が低かったんですよ。
石川氏:そうですね、当時は優先度低かったです。
――じゃあ元々この落下フェーズは、前半の曲のままで進む予定だったのですか?
石川氏:バトル班からの説明時には絵が出来ていなくて、なんとなく「今回は履行が長いらしいぞ」みたいな話だけがあったんですよ。
祖堅氏:最初は20秒くらいとか聞いていたんで、そこに新曲あててもあんまり効果的じゃないんじゃない、っていうのがあったんだよね。
石川氏:だけど私が、「これ20秒とかじゃなくてもっと長いらしいですよ、なんか浮くって聞いた!」って(笑)。
祖堅氏:それで僕も「はぁ!?」ってなってね(笑)。で、コンテンツ立ち上げて確認してみたらずっと浮いてるから、「なんだよ、これ!」って(笑)。
石川氏:更に、「これ出来上がると、浮遊しながら玉避けるようになるらしいっすよ!」って(笑)。
祖堅氏:それで「めっちゃなげぇじゃん!」ってなって。一応一度は前半戦の曲と、後半戦の曲(「天つ風 ~白虎征魂戦~」)をそれぞれ入れた状態で聞いてみたんですけど、「こりゃだめだな」ってなって、「やっぱり新曲作らなきゃだめだわ」と急遽いれたんですよね。
石川氏:優先度を急激に上げましたよね。
祖堅氏:これは入れないとバトルが成り立たないやって思ったからね。毎回そうですけど、全部プレイヤーの皆さんのバトルのためなんで。ゲーム的にバトルは避けて通れない部分ですし、そのバトル体験を盛り上げるために新曲は必要か必要じゃないかっていうのは、瀬戸際まで悩みますね。時間も限られてますので。
――白虎の後半では、初の日本語歌詞でしたね。
石川氏:初めての試みだったので、聞こえ方の調整が大変でした。
――かなりエフェクトがかかっているので、最初は日本語だとわからなかったです。
祖堅氏:そこはあえて、そうしています。
石川氏:はっきりさせちゃうと、私たちの耳だと「おっと、日本語きたー」っていう感じになってしまうので。あくまで英語を聞き流すくらいの感じで聞き流せる日本語にしたかったのですが、色々エフェクトをかけてもらったら最初の部分が竿竹屋みたいな音になっちゃって。祖堅さんに「これ竿竹屋だよ」って(笑)。
祖堅氏:「たーけやー」っていうあれね(笑)。そう言われたらそういう風にしか聞こえなくなっちゃって(笑)。
石川氏:「もうちょっと竿竹屋感を減らしましょうか!」って、あれこれ上げたり下げたりしましたね(笑)。
祖堅氏:なんかとにかくガチャガチャやってたね(笑)。あーでもないこーでもないって。
――極白虎の後半戦、1回目も2回目も「Storm,ride the storm」の歌詞のところで爆弾低気圧からの暴風の散開が来て、曲と共に暴風が膨らむSEが重なりますが、これって狙っているんですか?
祖堅氏:半分狙ってます。バトル班が結構そういうところも意識してるんですよ。コンテンツに入れてみて、もうちょいこうしたら合うじゃん、みたいなところがあると合わせていますね。白虎の場合、サビに入る前に四分の一小節だけフィルインを挟んでいるのはまさにそのタイミングを合わせるためだったりしています。
――やっぱりそうだったんですね。それは祖堅さんのほうで合わせることもあるし、バトル班のほうで合わせることもあるっていう感じですか?
祖堅氏:お互いの歩み寄りですね。
――ツクヨミでも、1回目も2回目も「華は装束く」のところで「極の月読」がきますよね。歌詞と攻撃が重なってくるので、これも狙っているのかなと思ったんですが。
石川氏:合わせられるところで合わせられるなら、という感じですね。無理に合わせることでバトルとして変になってしまうのは駄目なので、とりあえず入れて通してみて、サウンド側であとちょっとずらせば、っていうような時だったらずらしてもらうし、逆にバトル班のほうで曲のここのタイミングにあわせてこうしたらいいかなってずらせるときはずらしてもらう、みたいな感じです。お互いにすっごいギリギリのところで作業を進めているので、そこにこだわりすぎてもリリースできなくなってしまします。
でもみんなの中にあるテンポ感が大分合ってきているのは、傍から見ていても思いますね。なのでお互いに自然と合わせやすくなってきているというか。
――ノーマルの蛮神はあまりやらないので極で見た視点でですが、白虎もツクヨミも本当に曲と敵の攻撃やSEのタイミングが合っているので、どちらが意識しているんだろうってずっと気になっていたんですよね。
祖堅氏:みんなが意識していますね。実は極神龍も、曲と尻尾に乗るタイミングが合っているんですよ。雑魚フェーズから曲が変わりますが、そこから尾が突き刺さって、尻尾を渡って、曲が2ループ目に入るところくらいで、ちょうど神龍に攻撃が入るタイミングになるっていう。
――白虎のお話しついでにお伺いしたいんですけれど、サンクレッド役などをやられている声優の中村悠一さんが白虎の声をやっているそうですが、全然中村さんだとわからなかったです。蛮神のボイスにエフェクトをかけているのも、祖堅さんなんですか?
祖堅氏:基本は僕ですね。指針を決めて、あとは流れ作業ですけれど。
――あれは、どういうイメージでやられているんですか?
祖堅氏:トライアルでは、結構地声のままでいっていたりするんですよ。その時点では、戦う蛮神の大きさなどが、こちらも解っていなかったりするので。
実は声を録る時期っていうのはかなり前で、バトルコンテンツがまだ構想段階とかの時点で録らないといけないので、当時想定していたバトルコンテンツと実際に出来上がったバトルが乖離してしまうと、どうしてもいじらざるを得なくなってしまうわけです。この声だとどうしてもこのバトルに合わない、っていうときはああいう風にエフェクトをかけるんですね。
バトルに合う、というのを追求した結果、今回は中村さんの元の声から更に下げた声と、そこからオクターブあげた声をうっすら混ぜるというようなやり方で合わせました。中村さんもバトルに合うようにすごく上手く演じてくださっているので、それを最大限あのバトルの中で活かすために、あのようなエフェクトをかけるという感じです。
――ツクヨミの曲についてお伺いしたいんですが、全体的に蛮神のバトルの進み方がニーズヘッグと似ているドラマ性を感じたんですが、進行は意識されましたか?
石川氏:ニーズのときは竜詩戦争のおしまいでしたし、今回も「紅蓮のリベレーター」の解放の戦いの一区切りというところで、解放の終わりだからこそのドラマチックなバトルだよねっていうのはバトル企画側もすごく意識していて。みんなでそういう気持ちを共有していたのはありますね。
ニーズの時も「蒼天のイシュガルド」系の音楽をたくさん使っていたので、今回も「紅蓮のリベレーター」の思い出もりもりにしていただきました。
――ツクヨミの歌は、どなたなんでしょう?
祖堅氏:今回は作っている段階で、いつもみたいに社内の人間にヴォーカルをやらせるのは難しいと判断したので、ヴォーカリストを探してもらうことにしました。
――初の外部の歌手の方ですか。
祖堅氏:うちのサウンドのマネージャーに、雅な声がほしいんだけどって言ったときに「ひとり知ってますよ!」って。それで紹介していただきまして。めっちゃ上手かったですね。なのでレコーディングもあっという間に終わって、「楽しかったっす!」って言い残して、ぱーっと帰っていきました(笑)。
――いつも「FFXIVの楽曲は動画配信などがあるため内製で」ということでしたけど、そこらへんはご快諾いただいたということでしょうか。
祖堅氏:そうです、もうさらっと。
――ツクヨミで流れる歌の歌詞は、女性ヴォーカルはヨツユですよね? 男性コーラスのほうは、どういうイメージで作られたんでしょう?
石川氏:このインタビューが載る前に歌詞が出ているかもしれないですけれど、女性ヴォーカル部分はヨツユのそのままの気持ちで、コーラスの部分はヨツユに対して何かを言ってくる「ヨツユが敵と思っている人たちの声」というイメージです。メロディ自体はドマの綺麗なテーマなんですけれど、そこに乗っている男性の声は「おまえの足掻きなんて無駄なんだよ」とか、そういうことを言ってきています。
祖堅氏:「この小娘!」とかね。
石川氏:それに対してヨツユの気持ちが日本語のほうで歌われているという感じです。
――蛮神BGMは履行技の時に一度BGMが止まってバーンと切り替わるタイプが多いと思うのですが、今回は雑魚フェーズで綺麗なピアノが流れた後そのまま切り替わりが自然なくらいに後半のピアノに入りますよね。ここは難しかったんじゃないかと思うのですが。
祖堅氏:そうですね。ようは彼女の戦いって、妄想の中で戦っている彼女から、現実に光の戦士と戦うところまで、時間軸がつながっているわけじゃないですか。思い出からなにから。
今までの蛮神は「よし、この攻撃をよく耐えたな、おまえたち! じゃあ本気を出してやる!」みたいなバトルが多くて、そういうときはスパっと切って、「さあ全力で戦うぞ!」という感じにするんですが、このバトルはそうじゃなくて、断ち切れぬ想いと、でももうやるしかないっていう想いが連続体であるので、自然と次のステージにつながるような感じで、あえてそうしています。
雑魚フェーズでも後半戦でも、どちらもヤンサとドマのテーマをそれぞれ使っているんですけれど、使っている場所が二曲でスイッチしているんですよ。ヤンサとドマのメロディの、全然違うところを抜いてきて使っているんですね。そういうところでも、このバトルが連続体であるという表現を音楽でしています。
そして彼女の想いはヤンサのメロディに乗せていて、彼女の周りの奴らが「この小娘が!」みたいに言うのはドマのテーマに乗せて、という風にしています。
――なるほど。まさに「ドマ編」のラストを飾るに相応しい、様々な工夫が凝らされているんですね。
「リターン・トゥ・イヴァリース」の曲について――祖堅氏から見た崎元氏は「変態」!?
――イヴァリースで使用する曲については、石川さんやシナリオチームからの指定なんですか?
石川氏:イヴァリースは、当時「ファイナルファンタジータクティクス」(以下、FFT)や「ファイナルファンタジー XII」に参加していた前廣(※シナリオセクション:マネージャー の前廣和豊氏)に、特別に選曲をお願いしています。
「次元の狭間オメガ」に登場する敵も過去の「FF」のものですが、あちらはあくまで「FFXIV」におけるオメガの再現データという扱いなので「FFXIV」の世界にあわせてアレンジしたりもするんです。
一方で「リターン・トゥ・イヴァリース」は、表題のとおりイヴァリースへの回帰というコンセプトをコンテンツ全体で意識しているので、できるだけ当時の雰囲気を踏襲しつつという感じで製作しています。
なので、せっかく当時実際に製作に関わったスタッフがいるのなら、そのスタッフに選んでもらうのが一番でしょう、と。前廣も快く引き受けてくれて、毎回移植すべき曲を選んでくれています。
――イヴァリースのシナリオを担当されている松野泰己さんから指定があるとかではないんですね。
石川氏:そこは完全にお任せいただいておりますね。
祖堅氏:「祖堅はなんかアレンジしないの?」みたいなのはチクチクきますけれど、「ここは違うな」、と(笑)。
――基本的にはイヴァリースの曲は、リマスターしているだけ、という感じなんですよね?
祖堅氏:そうですね、リマスターです。音質調整はやらないと、他の曲との相性とかもあるし、色が全然違っちゃうとまずいので、「FFXIV」色に一度塗りなおしている、という感じです。特に「FFT」の音楽はプレイステーション時代のものですしね。今ある素材をそのまま「FFXIV」に合うように調味料を変えてあげる、みたいな感じです。
――祖堅さんから見て、イヴァリース楽曲の大半を作曲した崎元仁さんという作曲家は、どのような方でしょう?
祖堅氏:変態ですね(笑)。
――ええ?(笑)
石川氏:聞くといつもそればっかり! 「あのひとは変態だからね」って(笑)。
――なんとなくわかりますけれど、どこらへんがそう感じるんでしょう(笑)。
祖堅氏:いや、だって予測つかないんですよ、あの人の曲。ここからどうなるかっていう展開が、全然わからない。
――そうですか? 崎元さんと祖堅さんって、結構似た感じに思えるんですけど。
祖堅氏:いやいやいや、もう全然違います(笑)。
――崎元さんって、ひとつのメインテーマから曲をすごい派生させていくじゃないですか。祖堅さんもひとつのメインテーマから様々な曲を作っていきますし。実際の作曲手法とかは、私はプロじゃないのでわかりませんけれど。
祖堅氏:うーーーーーん。僕は常々崎元さんみたいな曲は作れないなって思いますよ。あのひとは本当に頭ん中どうなっているかわからないです。ほんと変態ですよ。
まぁでも、一緒の会社に居たころはよく就業時間中に「鉄拳」で盛り上がり、終電をなくし、「鉄拳」で盛り上がり、みたいな、そんなことしかしていない気がします(笑)。
――崎元さんがいらしたの、もう20年近く前ですよね?
祖堅氏:そうですねぇ、多分その当時ちょうどこのイヴァリース関連の曲作っていたころじゃないですかね?いやでも本当に「鉄拳」しかやってないですよ(笑)。
石川氏:逆に、その合間にこれらの曲が作られていたのかと思うと、すごいですねぇ。
――そうですよね、「鉄拳」の合間にこれほどの曲が作られているって、おかしくないですか?(笑)
祖堅氏:だから、変態(笑)。当時、そういえば崎元さんはPCをめちゃくちゃたくさん持っていて、机の下にPCが10台くらいあって。あの頃は、これだけの音を出すためには、マシンスペックが一台じゃ足りなかったんですよ。
カスケードでデータリンクしてて、「このPCは弦の音が入っているんだよ」とか言ってて、「そうなんすかー」くらいで聞いてましたよ(笑)。すごいシステムでなんか色々やっていた記憶はあるなぁ。
ソフトウェアじゃなくてハードウェアを買わないとどうにもならない時代だったんで、「音が出ないから新しいPC買わなきゃ」とか言ってどんどんPCが増えていくっていうね。あの人の部屋、蒸し風呂みたいになってたもん、PCからの熱で(笑)。
――崎元さんって元々ドライバ開発とかのプログラム畑のひとですしね。
祖堅氏:いや、芸術的な人だと思いますよ。変態(笑)。
――結局、落ち着くところは変態なんですか(笑)。
祖堅氏:僕から本人に直接言ったことはないですけど、崎元さんの曲って本当にかっこいい曲が多いんですよね。崎元さんの曲は、なんていうか目抜き通りじゃないんですよ。ちょっとひねくれていて、でもそのひねくれた結果を上空から見てみると目抜き通りになっている、みたいな。なんかだから、つまりは変態。
石川氏:変態って言った数ばっかりカウントされていく(笑)。
祖堅氏:いや、褒め言葉ですよ?(笑)本当にすごい人です。頭の中を見てみたいですもん。なんでああいう曲が作れるのか、僕には解らないので。
「蛮族クエスト:ナマズオ族」や「ライバルウィングズ」、そしてしれっと収録されている幻の“アノ曲”まで!
――では4.3で、ある意味音楽的にも様々な意味でも一番盛り上がったかなと思う、蛮族クエストについてお伺いしたいのですが。
祖堅氏:マウントがズルイという意味で汚いですよね(笑)。
石川氏:ナマズオも汚い(笑)。
――全部汚い(笑)。
石川氏:蛮族クエストっていつも作るのがすごく大変で、作るチームがカッカしながらやっているんですけれど、専用曲が届いた時にはみんなすごい笑顔になるものだから、私も横で見ていて「よかったね!」っていう気持ちになりました(笑)。まず最初に開発が和ませてもらった感じです。
祖堅氏:「わっしょいわっしょいのほう」は、ナマズオにやたら愛のある高田(※サウンドスタッフの高田有紀子氏)が日頃からあーだこーだ語っていたので、高田に「ナマズ好きなんだろ、作っておけよ!」って丸投げしました(笑)。
「わっしょいわっしょい」は、最初作る予定じゃなかったんですけれど、マウントが出来上がったらあまりにも「これは専用BGMつけないとだめだろ」となって、でも時間もなかったんでどうしようかって話し合いましたね。「『天晴大鯰音頭』をマウントBGMにしましょう」って言われたんですけど、「これは音頭であって神輿の“わっしょいわっしょい”じゃないから合わないよ」って織田さん(※世界設定/メインシナリオライターの織田万里氏)と散々喧嘩しましたよ。
ストーリー背景のことを何も考えないんだったら、スサノオの前半の祭囃子のところが「わっしょいわっしょい」のリズムだからそれを使おう、みたいな案も出しましたね。
石川氏:祖堅さんと織田さんがお互いに譲らないので、そこはもう当事者同士の話し合いでどうぞ、と私は身を引きました(笑)。
祖堅氏:僕はだから「スサノオの祭囃子を使えば解決するから、なんとかしてスサノオとナマズオのストーリーラインをつなげられないの」って言ったんですけど、織田さんに「そりゃー無理っすね」って軽く流されてしまい。
結局僕はもうその頃ツクヨミの楽曲を作っていてこちらにリソースを割けなかったんで、スサノオのセッションデータを高田にボンと渡して、「ここに祭囃子の全てのデータが揃ってるから、これにナマズの旋律をのせろ」って言って出来たのが、この「わっしょいわっしょい」です(笑)。スサノオの時とはパターン変えてますけど。
――まさかのスサノオからの派生ですか(笑)。
祖堅氏:僕らのデータの世界では、ですね。エオルゼアの世界では、スサノオとナマズオに繋がりはありませんけれど(笑)。
石川氏:紅玉海周辺にあるあるなお囃子だと思っていただければ(笑)。
――せっかく拠点BGMが実装されたなら、アジムステップの他のレストエリアの曲がほしいなぁって思うのですが。余輩とか。余輩とか。(余輩=マグナイ)
祖堅氏:余輩は、前廣さんにエイプリルフールで「MAGNAI FANTASY」作らされたし、またコイツのテーマかよ、みたいなのがあるんですよねぇ(笑)。
――みんな、それだけ余輩が好きなんですよ(笑)。次は「地風水 ~風水霊殿 ガンエン廟~」についてですが、こちらも4.3で好評ですよね。メインに直接関係のないIDにしては、曲にすごい気合いが入っているなぁと感じました。
祖堅氏:これも高田ですね。内情を話すと、このころ高田にちょっと時間があったので、じっくり作れたんじゃないんですかね(笑)。
石川氏:そろそろ曲数が多くなってきたので、完全新曲があまり効果的じゃないっていうか、むしろ知っているメロディも色々使っていきたいよね、っていうのを最近よく話題にしています。
ガンエン廟はヤンサのBGMをベースに使っているんですが、ヤンサはツクヨミにも使っているので、ヤンサのメロディだけじゃIDの曲を一曲作るのは厳しいっていうのもありまして。
その時に高田さんから「東方系のイベントの別れのシーンで使われている曲も使ってみたんですけど」って言われて、「バッチリっす! そのままいってください!」っていう感じで、色々織り交ぜていただいております。
――ではライバルウィングズの曲ですが、こちらは雰囲気が「紅蓮のリベレーター」のメインコンテンツとは大分違っていますが、どういうところを意識して作られているんでしょう。
石川氏:これ、一回リテイクしていますよね。
祖堅氏:確か最初はオーケストラみたいなのをいれてしまって、空気が重たかったんだよね。
石川氏:ライバルウィングズみたいなPvPって戦闘開始を音で判断してくださる方も多いので、非戦闘時は抑えて、戦闘に入ったらパーンと上げてください、みたいにお願いしているんです。テンションの差をはっきりさせるというのは、フロントラインのころから気を付けています。それでいて、もっとゴブリン兵器というかアレキのラインに近づけてください、という感じでお願いしました。
祖堅氏:PvPの曲って、蛮神の曲と違って、作るのが難しいんですよ。特にライバルウィングズは、ロボに乗れるじゃないですか。なのでテンションの最高潮はロボに乗れる時なんですよ。それが「ブルートジャスティス」だったり、「ローカス ~機工城アレキサンダー:起動編~」だったり、「ライズ ~機工城アレキサンダー:天動編~」だったりっていう既に存在している曲で、そこでテンションMAXにならないといけない。
それでいて石川の要望通りに非戦闘時と戦闘時のギャップを出し、でも戦闘時の音楽のテンションマックスはロボに乗った時っていう、この三段階が本当に難しい。それでやりなおしたんだよね。なおかつアレキっぽさに寄せてくれ、とかね。なんかもう「言うだけタダだよなー、チクショー!」みたいな気持ちで作ってましたね(笑)。
実際にコンテンツに曲を入れて、ロボに乗って、降りて、音楽を調整してまた乗って、みたいなのは何回もやりましたね。最初はこんなオルガンとかなかったんだけど、コンテンツに実際いれてみてなんだか違うけれどどうしよう、っていう感じでいれてみたりしてますね。非戦闘時の曲も、どれくらい落ち着かせればいいかっていうのは実際にゲームにいれてみて、アレンジをやりなおしていくっていうのをかなりやりましたね。
――ライバルウィングズは意外と試行錯誤が多いんですね。
石川氏:今思い返すと結構大変でしたね(笑)。
祖堅氏:うん、今思い出したね(笑)。「はまんねー!」ってなってたわ(笑)。
石川氏:そこに更に「フロントラインと変えてください」っていう要望ももらったんだった(笑)。
祖堅氏:そうだ!(笑)
石川氏:フロントラインはPvPの目印の曲としてはすごくよくできていたので、私も「どうするんだよ~…」ってなっていましたね(笑)。
祖堅氏:落としどころがもうピンポイントすぎて、そこに無理やり着陸させたような感じですね(笑)。むちゃくちゃだなぁと思いながらやっていましたよ(笑)。
――「絶バハムート討滅戦」の曲はサントラでようやく聞ける人が大半かなと思うんですが、本当にいい曲なので、ゲーム中でなかなか聴けないのがもったいないなと思います。
祖堅氏:絶はそういうコンテンツなので!(笑)
石川氏:一応元々の軸になっている曲は、「大迷宮バハムート」のストーリーで見ることができる、ルイゾワさんが何をしたかのムービーの中で使われているんですよ。なのでそのムービーの中から曲だけ抜こうとしたんですが、祖堅さんが「曲のデータ読めねー」って言い出して(笑)。
結局「じゃあもう一回作るわ」と作り直してくれたんです。まったく一緒ではないけれど、似た曲はそのムービーの中で聴けます。
祖堅氏:「Flames of Truth」っていうトレイラーですね。セッションデータを引っ張ってきて、「あった、あった!」くらいで開こうとしたらエラーメッセージとワーニングメッセージの嵐で、それをひとつずつ潰していったんですが、三日くらいかけてサルベージしてもダメで、それなら「もう作ったほうが早いな!」ってなりましたね。
――その「作ったほうがはやいな!」っていうのは、実際にどれくらいで完成するんですか?
祖堅氏:一日で両方作りましたかね。
――明らかに最初から作ったほうが早いじゃないですか(笑)。
祖堅氏:サルベージとは、ってなりますよね(笑)。最初から三日もかけてサルベージしてないで作っていればよかったなって思いますよ。なんていうか、こういう作業ってやり出すと引っ込みがつかなくなっちゃって。二日目くらいまでは意地になっていて、三日目で投げました(笑)。「もういいわ」って(笑)。
――今回のサントラには、「絶アルテマウェポン破壊作戦」まで収録されているんですね。
石川氏:絶アルテマ戦は「THE PRIMALS」バージョンの曲やオーケストラバージョンの「究極幻想」を使用していますが、基本的にサントラは「ゲームに入っているものは入れる」というスタンスでやっています。
旧「FFXIV」の曲で最近の「FFXIV」で使った曲とかも改めて入っていたりとかするんですけど、それと同じ感じで絶に挑んだ人がいる以上はサントラにいれないとだめだろう、という感じです。
祖堅氏:サウンドトラックってそういうものだと思うので。絶アルテマだけ「THE PRIMALS」に入っているんで買ってください、みたいなのは違うかなって。まぁ会社としては、そういうのを望んでいるんだと思うんですけどね、売るほうですからね(笑)。俺らは「知らね」くらいで作ってますね(笑)。ゲームで聞いた曲は全部入ってます、っていうほうがいいじゃないですか。
――今回シークレットトラックはありますか?
祖堅氏:シークレットトラックは、シークレットトラック自体の存在に否定的な意見がレビューに書き込みされていたので、前々回くらいからやめました。そのかわり、MP3が全部ダウンロードできる機能をつけた上で、今回はエクストラに「THE PRIMALS」のMVが「ライズ」と「過重圧殺! ~蛮神タイタン討滅戦~」の二曲あるんで、そちらを高画質高音質で収録しました。
石川氏:あ、でもシークレットトラックとかじゃなくて普通に、ラクシュミのアナザーバージョンがしれっと入っています(笑)。
――例の村田さん(ローカライズ部の村田あゆみ氏)バージョンですか。
石川氏:女子高生バージョンっていってたやつですね!
祖堅氏:めっちゃしれっと普通に通常のラクシュミと並んで入っていますね。なんか「Oasis Mix」ってついてますね。今、サントラの曲名のリスト見て知りましたけど(笑)。
――この一年間、ずっと聴きたくて仕方がなかった曲です。実際こうして聞かせていただくと、本当にすごいはにかんでいるラクシュミっぽいですね(笑)。
祖堅氏:村田も「私じゃ無理っす」って言ってましたからね。それを「なんとかしろよ!」って言ってたんですけど(笑)。無茶ぶりだったのは解っていたので。残念ながらゲーム内では実装されませんでしたが、こうして無事救われたので成仏できると思います(笑)。
石川氏:多分、ゲーム内に入っていない曲ってこれだけですよね。
祖堅氏:そうですね。(試聴ディスクをいじりながら)なんだ、この「うぃざーどりー」って。
石川氏:これは2017年の新生祭の時のやつですね。それにしても、そのタイトルどうなの?(笑)
祖堅氏:このタイトル、完全にそのまんまじゃないか(笑)。
――このタイトルつけたのは織田さんですか?
石川氏:織田かコージ(ローカライズディレクターのマイケル・クリストファー・コージ・フォックス氏)か、どちらにしてもあの二人の仕業ですね(笑)。
祖堅氏:未収録曲はラクシュミのこれだけですけど、零式に行っていない方はここでようやく「妖星乱舞」の第4楽章も聴けますし、絶バハムートも聴けますね!
――サントラには、いつも通りのコメンタリーも入っていますね。
祖堅氏:入ってますよ。今回から英語表記もいれろって言われたんで、日本語と英語の両方が入っているんですけど、それのためにあまり文字をいれるとトランスレートしたときにこのコメンタリーの枠に入らなくなるから、簡潔に書けって言われて、比較的どれも今回はあっさりとしてます。一応、裏話的なものが入っている曲もあります。
アレンジアルバムとしても楽しめる!? 「STORMBLOOD」サウンドトラックは、2018年7月4日発売!
――去年のオケコンで、吉田さんが「次のオケコンでドマ編、アラミゴ編とかやりたいな」的なことをおっしゃっていましたが、その後いかがでしょう?
石川氏:私もやりたーい!
祖堅氏:オケコンをやるのが、どんだけ大変かと!(笑)
僕明後日からE3なのと、あとロスで海外の人たちにオーケストラコンサートを届ける仕事をしてくるんで、まずはそれをやってからですね。8月にはドイツでオーケストラコンサートもありますし。東京で去年の9月にやった「Eorzean Symphony」を、まず海外の皆さんにも届け終わってから!…にさせて(笑)。
石川氏:でもそこから考えたら、またあと2年かかるじゃないですか。
祖堅氏:それを今からかかったら、また次のサントラが遅れちゃうでしょう(笑)。そんなんもう、色々無理ですよ(笑)。「色々あるからちょっと待ってー!」って。
石川氏:……ご期待ください?(笑)。
――はい(笑)。
祖堅氏:オケコン、本当に超大変なんですよ、2万人単位のオケコンなんてそもそもクラシック界でもないんですよ!
若干死人が出るんじゃねーかっていうくらい大変で、主に(音楽出版部のメンバーを指して)あの辺がね。あの時やばかったよね(笑)。
(関係者の皆さん):b:結構やばかったです(笑)。
祖堅氏:あの当時、本当にみんな顔が死んでたからね(笑)。そのやばいのをまた来週アメリカでやってくるわけなので。
――海外のオケコンは、去年東京でやったのと全く同じですか?
祖堅氏:そうです。まだ海外ではまったくオケコンをやっていないので、まず東京で去年やったものを届けにいきます。とは言っても曲順が同じなだけで、MCとかは僕ら台本を全く作らないので、その場の雰囲気とかで変わりますけど。
この間の「THE PRIMALS」も、どこでMCやるかすら決めていなくて、適当なところでMCやってたりしてますしね。その辺は日本のオケコンと変わるところもありますし、あと時間停止演出がどうなるかとか、現地でしか味わえないものはあるかと思います。
石川氏:すごい会場でやるんですよ。
祖堅氏:アカデミー賞の授賞式やるところなんですよね。オスカー像が建っているところ。
――おお、ドルビー・シアターですか。
石川氏:すごいでしょう! って私なんにもしないんですけど(笑)。
祖堅氏:俺も連れていかれて舞台に立たされるだけなんですけど(笑)。
石川氏:私は東京から応援してます(笑)。
祖堅氏:僕らって普段デスクワークで地味な仕事してるんですよ。チクチクチクチクと。で、たまに「行け」って言われて連れていかれると、ビカビカビカ!「うわぁなんかいっぱいいるぅ」みたいな、この二択しかないんで、なんかもう訳がわからないっす。
――お察しします(笑)。最後に、サントラを楽しみにしているファンに一言お願いします。
祖堅氏:とりあえず、第一声は発売が後手になってしまってすみません、ということなんですが、その代わり最新まで全部いれましたということで。いれてない曲はないです。絶も全部入っています。一回は全部聞いてください、ということで。「A Realm Reborn」、「HEAVENSWARD」という今までの作品に今回の「STORMBLOOD」を並べると、これまでと本当に違う空気感があるので、それを楽しんでもらえると嬉しいなと思います。
今回はオリエンタル調なんだけれどファンタジーの王道をいっている曲もありますし、レイドコンテンツで過去作のアレンジもたくさんはいっているので、昔「ファイナルファンタジー」を遊んだよ、という人にとっては、ひとつのアレンジアルバムとして成立するくらいに色々収録されています。
石川氏:その点では、私、「魔列車」をすごく推したい。15秒しかないですけれど、これは絶対聞きたい同志がいると信じて、ねじこんでもらいました。そういうアレンジアルバムとしても楽しめる一枚かなと思いますね。
祖堅氏:アレンジアルバムとしても、20曲弱くらい入っているんじゃないかな。そういう意味でも楽しめると思うので、たくさんの人に手に取って聞いてもらえると嬉しいです。
石川氏:ゲームの中で聞けた曲、聞けなかった曲、最近聞いた曲、最近聞いていない曲、色々あると思うんですが、頭から聞いてもらうと「紅蓮のリベレーター」以降の物語が思い出されるような曲順になっています。なかなか105曲を頭から聞く機会はないかもしれませんが、綺麗な画像もついているので、ぜひ一度聞いていただけるととても嬉しいです。
祖堅氏:今回も、音は全部ハイレゾで入っています。そしてMP3のダウンロードもできます。これ一枚で全部済むんで、お勧めです!お待たせして本当にすいませんでした。よろしくお願いします。
――ありがとうございました!
(C) 2010 - 2022 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. LOGO ILLUSTRATION: (C) 2010, 2014, 2016, 2018, 2021 YOSHITAKA AMANO